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04 審判に応援されたはずだが


 剣術大会には騎士団からも多くが出場する。

 職務や怪我など無ければ基本的に参加することになっているからだ。

 そうなると割りと知り合い同士で戦うことになる。


 あの人は今年子供が生まれたなとか、あいつは最近できたばかりの恋人が試合を見に来るらしい、といった雑音が入るとどうしても手心を加えたくなるのが人情だ。

 武術一筋で生きてきた、恋人などいたことがないマリスにだってそういう感情が湧く。

 それに実戦であれば、事前に戦う相手の情報が無いままに飛び出さねばならない場合もある。

 だからマリスは剣術大会のような場では、剣を交える相手の情報を直前まで極力遮った上で戦いに臨むことにしている。


 今思えば、大会の係員は震えながらマリスに対戦相手を告げてきた気がする。

 が、マリスは耳栓をして聞こえないようにし、ただハイハイと頷いて返した。

 実は王太子と一回戦から当たることを避けて皆辞退していたところでマリスにお鉢が回って来ていたのだ。


 それでも、最終段階、競技場に入ったときに気が付くべきだった。

 競技場のあの熱狂的な空気にただならぬ何かを感じ取るのが、普通で当たり前でまともで通常なはずだ。


 なのに!


 マリスは対戦相手がどこぞの貴族令息で、お遊びの箔付けで剣術大会に参加したのだと思い込んでしまったのだ。

 そしてその予断が更にマリスを窮地へ追いやることになる。




 マリスが騎士団に入ってすぐのタイミングでちょうど王太子は留学のために国外に出た。

 しかし当然だが、王太子の存在を聞いていたと言えば聞いていた。

 騎士団は王の盾となるべくその存在が意義付けられているのだ。

 守るべき王族の王の次に身分が高い王太子が、留学から最近帰国されたらしいことも知っていた。

 

 だが王太子の凱旋パレードには……、ちょうど王都のはずれでボヤ騒ぎがあってマリスは行っていない。

 マリスはみんながすごく騒いでいたのに……王太子の顔を知らなかった。

 騎士団職員のお姉さま方が、あんなにあんなに、かっこいいと浮かれていたのにだ。




 マリスが競技場に入場したとき、絶叫や悲鳴のような声がそこここで沸き起こっていて皆が何を言っているかなんて分かったものではなかった。

 係員が出場者を読み上げる声なんかも聞き取れない。

 そしてマリスの目前では、なんかよく分からんが煌々しい青年が皆の声援に応えるように片手を上げた。

 すると、水を打ったがごとくその場が静まり返ったのだ。


 それがとても芝居じみた行いだとマリスは感じてしまった。

 あまりに相手方の声援が大きすぎたのと対戦相手の気取ったような仕草に、マリスは鼻白んでしまったのだ。


 昔、王国の外から身分を隠して参加した実力者がいたらしいが、今マリスの目前にいる対戦相手にはそんな雰囲気はない。

 装いが明らかに立派だし応援する人々も異様に多い。

 これはどこぞのお貴族令息が戯れに剣術大会に参加したというやつだろう。

 マリスはそんな風に思ってしまった。


 武の道を行くマリスにも魔が差す瞬間がある。

 そしてマリスは相手を侮ってしまった。



 審判の掛け声で試合が始まった。


 審判は掛け声を掛ける一瞬前にマリスに目線だけで伝えた。

 「もちろん分かってるよね!」と。


 マリスも神妙に無言で頷き返す。

 「頑張って勝ちます!」と。



 試合が始まったが双方動かない。

 令息様の……間合いが読めない。


 瞬間、令息様の方から剣撃が一筋入った。

 マリスは真正面で受ける。

 予想と異なり重い剣圧だ。


 令息様も防具を付けたマリスの見た目が全体的に細身だったので、どこまでの力を出すべきか計りかねていたようだ。

 が、マリスの返しを見て、しっかり剣を構え直した。


 しばらく緊張のときが流れた。

 距離を取って二人は睨み合う。


 緊張を切ったのは令息様の方だった。

 マリスに向けて横から払う様に模造剣を構え、一閃繰り出す。

 マリスは剣が下から来ると読んだ。


 カッシャーンッ


 模造剣同士が当たって令息様の剣が宙を飛ぶ。

 それだけで良かったのに、令息様が予想外に使い手だったことでマリスはつい動きが大きくなってしまった。

 余計な力が入って令息様を避けきれなかったマリスは、そのまま令息様の鳩尾に剣の柄で一撃入れてしまう。

 マリスは勝利した。

 でも審判は旗を上げてくれない。目を見開いて呼吸すら忘れている

 誰も、一言も、発しない。


 令息様はマリスの前でうつ伏せに倒れている。

 それはマリスの落ち度だ。

 相手を下に見てしまったために戦法が雑になって伸してしまった。

 まあでも剣術の対戦においては無いことではない。

 相手には内臓や骨にまで至るような衝撃は与えていないはずだ。

 なのでおかしい。

 なぜ誰もかれも一様に固まったままなのだ?


 審判が旗を上げるまで動けないので倒れた相手を助けにも行けない。

 マリスは仕方なく片手を挙げて言った。


「あ、あのー……勝負有った?……でいいんですよね?」


 その瞬間その場にいた全員から、マリスに向けた憤怒の視線が付き刺さった。

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