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36 絶体絶命のはずだが

 ―― 襲撃事件、公爵令嬢シレーヌ ――


「生ける伝説様、ご所望のものを持ってきました」

「ん? あ? 何? なにー?」


「ですので、伝説様のおっしゃってたやつですよ」

「……意味がわからん」


「だから、薔薇です! 薔薇、『青き大輪の薔薇』、ほら!」

「だから! 意味が分からん!」


 シレーヌは目を覚ました。

 気分がものすごく悪い。

 動こうとしたが手を縛られていた。


(そうだ……わ)


 馬車が滅茶苦茶に走って、シレーヌはどこかへ連れて行かれたのだ。

 薬を嗅がされたことは、おぼろげながら記憶にある。

 今は縛られていて、ここがどこだかも分からない。

 とにかくまずい状況だ。

 重たい頭を頑張って動かした。


 シレーヌは絨毯が敷かれた床の上で横になっていた。

 絨毯はなかなか立派なものだ。

 ここが貴族の邸だと言われたらそう思うだろう。

 自分が今、凝った調度の長椅子の後ろ辺りに転がされていることも分かってきた。

 段々周りが見えてきた。


 ……今さっき、複数の男の声がしたことをシレーヌは思い出す。

 聞き覚えが無い声だった。

 …………怖い。


「だから、こちらですって! コレ!」


 シレーヌの頭の上の方にずんぐりした白いシルエットの男が近付いて来た。

 まだ視界がぼやけているが、初めて見るような人物の気がする。

 ところで、男はシレーヌにむけて指を指していた。


(えっ? わたくしが『コレ!』なの?)


 なんかモノみたいに言われているらしいと気が付いた。

 ちょっと目が覚めた。

 恐ろしいには違いないが腹も立ってきた。しかし。


「だから! 意味が! 分からん! ………ん?」


 もう一人男がやって来て……しまった。

 シレーヌは最近体術の研究にはまって様々な文献を読んでいる。

 更に自分なりの考察を加えてまとめたりもしていた。

 武術の知識だけなら、一通りのうんちくが語れる。

 でもシレーヌには実践は無理だ。

 縛られていて頭も痛くて、しかも男性二人には絶対勝てない。

 絶体絶命だ。


 後から来た、銀色が混った黒髪の男が、シレーヌに近付いて来て……シレーヌに覆いかぶさってきた。

 怖い! 助けて!


「……ケビンさまっ……」


 蚊の無くような本当に小さいものだったが、シレーヌの声が出た。


「ん? 大丈夫? なんで縛られてんの? こいつがやったのか? 許せんな!

 ……今、ケビンって言った?」


 二人目の男はシレーヌに覆いかぶさってきたが、すぐにシレーヌの手を縛っていた縄をほどき、倒れていたシレーヌをそっと抱きかかえて、すぐ傍のソファに横向きに座らせた。


 シレーヌは抱きかかえられたときこそ、びくっと体を震わせたが、この茶色がかった黒目の男も「ケビン」という名を口にしたので、それでなんだか少し緊張を解くことができた。


 ところで、一人目の男、上下共白い服を着て、赤髪をキノコのように切り揃えた若そうな男の顔が、だんだん青くなってきている。


「えーと、えーと、『青い薔薇』って、コレじゃないんですか?」


 シレーヌは再び「コレ」と言われてずんぐり赤キノコを睨んだ。

 茶黒目の男もキノコを睨んでいる。


「この女の子、縛られてたけど、まさか、無理矢理ここに連れて来たのか?

 許せんな!

 なんでこの子が『青い薔薇』なのかは知らないが、女性を(かど)わかすのは最低だ。

 もう絶対、お前たちの頼みは聞かないからな!

 美味しい飯は食わせてもらったけど、俺がこんな非道を許したら……

 姪っ子に顔向けできない。いや殺される。

 ケビンにも殺される」


 茶黒目の男性がまた「ケビン」と口にした。

 ケビンと言うのは、まあまあよくある名前だ。

 そういうことなのだろうけれど……


「で、伝説様が、『青い薔薇』持ってきたら、国に付いて来てくれるって言ったからじゃないか!」


「えー、なに! 俺が悪いって言うのか! ん? あー……ぬっ?

 …………言ったわ。『青い薔薇』言ったわ。

 えー、でも『青い薔薇』って『この世に存在しない』っていう意味じゃないの? 

 昔、教えてもらったんだけどなー。

 だから『青い薔薇でも持ってきたらあの国に行ってやる』っていうのは『絶対行かない』っていう意味で言ったんだぞー

 しつこく言われたからさ。

 でも、俺がケビンの真似して、詩人みたいな表現しちゃったのがまずかったのか? そうなのか?

 えー、とー、君は『青い薔薇』さん? なのかな? 俺が言ったことが悪かったらしい。

 大変申し訳ない」


 茶黒目様がまたまた「ケビン」と口にした。

 とりあえず、どこぞの「ケビン」さんに感謝しよう。

 「ケビン」という、シレーヌにとって大切な言葉を聞くことで、シレーヌは冷静になってきたし、恐怖も少し収まってきた。


 全容を把握はしていないが、シレーヌを(さら)ったのはずんぐり赤キノコだ。

 こいつが悪い! コホン、こっちの男性が悪者だ。

 茶黒目様は、誤解を生む表現をしたことで発端を作っているようだが、とりあえず縄は解いてくれたし、誘拐は許せないと言っている。

 まだ無事に解放してもらえるかは分からないが……


「いやほんと。『薔薇』さん、済まない。

 ケビンは、若いのに王立騎士団で隊長やってるんだよー。

 こんなことが知られたら、ホントに一生口聞いてもらえなくなる。マリスにもだ。

 そうだ! マリスも騎士だよー。

 怒られ……る……ぅなー? ……なーぁぁあ?……」


 どうしたのだろう。不思議な声を出している茶黒目様は窓の外を見ていた。


 ……って、今、なんとおっしゃいました?

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