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35 狙いはこちらのはずだが

 ―― 王城に戻る途中、セオドア王太子 ――


 ときは少し遡る。



 仕立て屋から出立した一団で、セオドアは自らの護衛たちと王女の城下散策班とでそれなりに長くなってしまった列の最後尾に近い辺りで馬を進めていた。

 結局、セオドアも騎乗している。


 王城方向に向かう一団は高貴な方々を乗せているためゆっくり進んでいく。

 それにしても、遅れて出発しただろう公爵家の馬車はやはり追い付いてこなかった。

 最終目的地が王城と公爵邸で異なるため別に問題無いのだが、マリスが気になってチラチラ後ろを振り返ってしまうセオドアだった。



 先ほどのマリスの、深紅のドレスを纏った姿を思い出すたびに、息をするのを忘れそうになる。

 そう言えば、ドレスを纏う前は少年のような姿をさせられていたと聞いている。

 それをセオドアは見ていない。

 それも……見たい。

 すごく見たい。


 でも、そんなこと、どうやって頼めばいいのだ?

 自分がタチアーナみたいに、マリスに男装をさせるなんて………

 なんの方向性だ?!

 そもそも自分は、ゼントランの唯一の王子として、次期王として、あるべき器を維持しなくてはいけないのに。

 自分の欲求を誰かに強いるなんて。


 いや、違う。

 王子とか王太子とか後継者だとか、そんな表向きの表面だけの自分を作ってしまった今までの方が問題があるのではないか?

 すべき、とか、そうあるべき、だけじゃなくて、

 自分の欲しいもの、とか、やりたいこと、とか、そういうものも大切にしないと上辺だけの人間になってしまうのではないか?


 幼少期から色々あってこうなってしまった気がする。

 でも……今からだって……取り戻したい。取り戻せる。

 マリスとなら、大丈夫。

 マリスの戦いの神のような真の強さの横でならば、理想形じゃないセオドアだって間違えないのだ。

 だから。……マリスでなければ。

 そうじゃなくて。……ただマリスがいい。



 そんなことを考えていたセオドアは結局浮かれていたのだろう。

 異変に気が付くのが遅れた。


 タチアーナは何かやらかす。

 今日だってフェリクスに見張らせていた。

 誰かが接触してくるかもしれなかったからだ。

 しかしもうすぐ王城だ。

 何かあるとしても今日では無いようだ。

 やはり舞踏会か……


 ……違った。


「あぶない!!」


 隊列の一番先頭で、誰かが叫ぶ声がして、馬の悲鳴のような鳴き声も聞こえた。

 隊列は止まった。

 騎士たちが用意した灯りが周囲を照らしているが、何が起きたのかは見えない。

 セオドアは馬を走らせた。


 先頭の馬車には、警護要員たちが乗っている。

 大事を取って、セオドアは少し手前で馬を止めた。

 一人の騎士が報告のために駆け寄って来る。


「殿下! 子供です! 子供が二人、馬車のすぐ前に飛び出して来ました。

 馬車とは接触していませんが、転んで動けないようです。」


 セオドアは状況判断に努めた。

 これはおかしいのでは?

 暗いから見えなくて飛び出してきたのかもしれない。でも。

 こんな時間に? 何があった?

 続けて別の騎士が駆け寄って来た。


「殿下! こ、子供が、王……女様の手下に言われて、馬車を止めたと……」


 そのとき、すごい速さで走る黒い馬車が後ろから急に現れた。

 そして、馬の嘶きと同時に停まった馬車から、わらわらと黒装束の者たちが出てきた。


 これは夜盗の類ではない。

 ここにいるのが誰かが分かって襲ってきた連中だ。

 身のこなしが訓練された軍属のようだ。


 狙っているのは、セオドアか?

 「王女の手下に」などとわざわざ言うのは……おかしいのでは?

 王女と言うのだから闇組織の動きと関連があると見るべきか?

 真の狙いはタチアーナか?

 何かの理由で王女の口封じに動かねばならない事情が出てきた可能性もある。


 余談は許さない。

 セオドアは賊に向き合う。


 打ち合いが始まった!

 やはり賊の動きは破落戸(ごろつき)のレベルではない。

 しかし、こちらも騎士団の精鋭がいる。

 セオドアも戦える。


 ところがセオドアはやはり判断を見誤っていた。

 遥か後方のエゼルセフ公爵令嬢は、今日、タチアーナたちの城下散策班に偶然会っただけだ。

 成り行きで一緒に居ただけのはずで無関係だと。




 だが少し離れた場所で公爵家の馬車も襲われていたのだ。

 狙いは、王太子でも王女でもなかったのか?

 それとも単なる巻き添えか?


 公爵家の馬車は二十人ほどの賊による襲撃を受けていた。

 賊は訓練された者たちだ。

 対して、公爵家の馬車に付く戦闘要員は、二人の護衛騎士とマリスの三人だけだ。

 しかも、急襲を受けて負傷した公爵家の護衛騎士は、剣がまともに持てない状態だ。

 セオドアの護衛騎士も敵の数が多いことに青ざめている。


 が、マリスは強い。

 元々の素養、騎士団の訓練、実戦経験、加えて最近は王太子との密度の濃い鍛錬で更に腕を上げていた。

 シレーヌの乗った馬車を背にものすごい速さで賊を倒していく。

 護衛騎士たち二人も絶望的な状況から、マリスの強さに光を見出し、なんとか奮戦する。


 ところが公爵家の馬車を引く御者が馬車から落とされた。

 代わりに御者台に乗り込んだ賊の一人が、シレーヌを乗せたまま、ものすごい勢いでその場から馬車を動かす。

 瞬間マリスは着ていた隊服の内ポケットから革袋を取り出して遠のいて行く馬車に投げつけた。

 革袋は馬車の扉にベシャリと当たって落ちた。




 暗い夜道の中、シレーヌは馬車の中で揺られながら、意識を保つのも苦しいぐらいの恐怖に苛まれていた。


 しばらくして、馬車は乱暴に止まったかと思うと、坂道を横滑りしたのか傾いて大きく揺れて止まった。

 すぐに、馬車の扉が乱暴に壊されて外から開けられる。

 絶対に……味方では無い。


 シレーヌは絶望で意識が薄くなったが、入ってきた黒ずくめの者に薬のようなものを嗅がされて、今度こそ暗い眠りに落ちた。

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