33 密談、なのでは?
―― タチアーナがゼントランへやって来る前、西の隣国のとある貴族の館にて ――
「子爵、御子息共々、これまでの協力に感謝するわ。
お陰で、幸福をもたらすあの甘い薬が、この西の王国でもだいぶ浸透したもの。
心配しなくても、あなたの家もこれからは、薬を買うために金を使う方では無くて、薬の紹介料で儲ける方になるわよ」
「そうだよ子爵。
我がゼントランの方では、あの薬の普及に私も尽力していて、なかなかの利益を上げているよ」
「そうよ、だから、子爵の功績が報われるのももうすぐよ」
「そうそう、あの王女様が活躍するのももうすぐだな。
王女は、一見我儘で手が掛かるようだが、大変御しやすくて助かる。
今回も、セオドア王太子の婚約者になる為にゼントランへ来るって話に、すぐ乗ってくれた」
「やっぱり……、あなたが王女に耳打ちしてたのね。
相当浮かれてるわ、ホントにバカ王女だったのね。
それにしても、王女の父君も、知っててもみ消すみたいね。
まあ、結果的に今回の計画が上手く行くなら、それはそれでいいんだけど。
ゼントランには、他にも用事があるから、良しとするわ」
「あのバカ王女にしつこくされれば、いい加減セオドアも王女に冷たくなるだろう。
そこで、逆上した癇癪持ちの王女殿下様が王太子に一服盛るのだ!
素晴らしい展開だね。
大事な薬はこちらで運ぶから任せてくれ」
「頼むわ。
ゼントランで、あの子に渡してくれればいいから。
今は、王女の荷物には入れられないしね」
「そうだ! やるならゼントランで王女の為に開かれる舞踏会がいいな!
まさしくタチアーナ王女には存分に踊ってもらおう。
そして王太子には、身体が麻痺する特製の薬を呷って頂こう!
これでゼントランと西の王国との蜜月は終わりを告げる。
やはり、事件が起こるなら舞踏会が相応しい。
完璧だ! 私は楽しいことが好きなんだ!」
なんてことなの。
どうして、うちなの。
どこで、まちがったの。
あの人は、見栄っ張りで、他人からの評価や、上辺だけのお世辞に振り回されてばかりで。
それでも、子爵家を継ぐ頃までは、いいところだって有ったのに。
昔は優しい人だったのに。
事業で失敗してから、変わってしまった。
あの子も、小さい頃はとても大人しい子供だったわ。
お義母様に溺愛されて、なんでも欲しいものが与えられて、母親の私のことを、お義母さまと一緒になって、メイドのように扱うようになってからおかしくなった。
私がいけなかったのかしら。
命令されることに慣れてしまって、反論する気力を失って、お義母さまの言いなりになっていたから。
もうでも、うちの子爵家もおしまいね。
薬物に関わっただけでなく、……異国の、ゼントランの、あの王太子様、あの素晴らしい王太子様に、毒を盛るような連中の仲間になるなんて。
どうして、あんな企みが成功すると思ってるのかしら。
どうして、あんな話をする人たちのことを信じてるのかしら。
もう、………中毒のせいで、まともに考えることもできないのね。
儲けられるなんて、騙されているに違いないのに。
私にできることは、もう。
もう、この罪を終わらせることだけ……なのだわ。




