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26 要望にも応えたはずだが

 タチアーナは思い立ったら我慢できない性質だ。

 城下で人気のカフェというところに、今すぐ行きたくなった。

 もちろんセオドアと一緒が良かったが、さすがに、すぐに言ってすぐに来てくれないことは分かっていた。

 なんだかよく分からないがセオドアは忙しいのだ。

 それもそうだろう。

 今は王太子でその次は王になる人なのだ。


 タチアーナの父王だって、いつも忙しいと言って、タチアーナに構ってくれたことなどほとんど無い。いや全然無い。

 タチアーナの世話については、父王が育ての母に言い付けて、育ての母が侍女に言い付けて、侍女が下女にいいつけて、下女が年若い下働き見習いに言い付けて、それでやっと、頼りない子がタチアーナのところにやって来る仕組みになっていた。

 騒げば、タチアーナが欲しいものは大抵用意してくれるから、別にそれで困ることはないのだが。


 だから、よく分からないが、王とか王太子が忙しいのはタチアーナにも理解ができている。

 案の定、城下に行きたい、のと、それに一緒に付いて来て欲しい、という希望を侍女経由でセオドアに伝えたが、答えは「残念ながら王太子は予定が詰まっている」だった。


 タチアーナの予定外の外出そのものも、グレタは断られるだろうと思っていた。

 前もって準備していたら可能かもしれないが、警護の問題もある。急には無理だろう。

 しかし予想に反してセオドアは、警護要員を整えてタチアーナの城下行きを許可してくれた。

 実はセオドアは、少し前から、タチアーナには何かの息抜き・毒抜きの用意が必要なのではと考えていたのだ。


 タチアーナが随所で我儘を繰り返して問題が生じているのは報告で上がっている。

 タチアーナのイライラも溜まっているはずだ。

 実際はニーナのデートの提案で溜まったイライラは霧散していたのだがそれは別の話だ。

 それにタチアーナの公務は、想定通りタチアーナが使い物にならないので、体調不良ということにして極力減らしていた。

 そのため、タチアーナ自身の予定も今やガラガラだ。

 とにかく、この辺で少し溜まった(おり)を除去した方が良いと考えていたセオドアは、タチアーナから要求された場合に備え既に何案か用意していたのだ。


 急遽だが準備していたのでスムーズに城下散策班が組まれた。

 ただセオドアは気が付いていなかった。

 タチアーナに同行する女騎士についてだ。

 本当は今日の警護担当は別の者の予定だった。

 警護要員は騎士の体調などによって適宜入れ替えることもある。

 しかし今回はタチアーナが気まぐれに気に入らないと言い張って担当から外された女騎士がいたために、代理の騎士が警護に入っていたのだ。


 本日、日中の警護要員(改)は下記の通りである。


 警護要員名:サーラ 所属:王立騎士団第七女騎士隊 階級:副隊長

 警護要員名:マリス 所属:王立騎士団第四隊 階級:騎士隊員(女性)




 王女の城下散策には、警護上も一応お忍びの形が良いと言うことで、貴族令嬢という設定でだが、とにかく目立たないような装いを一行で整えることとなった。

 タチアーナの自慢の波打つブロンドの髪も今日はまとめて結われてしまった。

 それに、同行する女性全員もが似たような髪型をすることになり、タチアーナのいつもの派手さはすっかり封印されてしまった。

 もちろんタチアーナとしては不満だが、提示された外出の条件に従って、ここは(こら)えた。

 それぐらい城下に降りることが楽しみだからだ。


 機嫌のよいタチアーナは、マリスと、それから少し濃い目の茶色い髪を既に結い上げている女騎士のサーラ副隊長にも、王城の衣装室から持って来させていたドレスを着せようとした。

 タチアーナは暇なのでニーナと着せ替え遊びをしていたのだ。

 タチアーナの部屋は煌びやかなドレスで溢れかえっていた。


 サーラ副隊長はこういった場合に備えて騎士団から持参していたブルーグレーの侍女風ドレスを着用すると申し出た。

 サーラはドレスでの警護にも慣れている。

 場合によっては盛装することもある。

 それにドレスとは言え、急時には動きが制限されないような仕掛けもあるし、意外と武器が隠せて便利なこともある。


 一方マリスはそうはいかない。

 そもそも貴族の侍女風のドレスなどマリスの持っている衣服の中には存在しない。

 要人警護自体の実績は有ったが、ドレスでの警護は経験が無いのだ。

 なのでマリスはドレスの着用を断った。

 男性騎士も一般市民を装った衣服に着替えている。

 とは言え、一人ぐらい騎士の隊服を着た人間がいてもいい気もした。

 マリスは顔を隠す必要も有るので、帽子を被ることでタチアーナに了承してもらおうとした。


 でもタチアーナは納得しなかった。

 同じ女性の騎士であるサーラはドレスに着替えるのだ。

 マリスの方が帽子だけでは面白くない。


「分かったわ。黒髪の騎士は、男の恰好をして男になりなさい。それならいいでしょ?」


 タチアーナは我ながら良い案だと思った。

 そしてマリスは、元来が素直な質なので周囲がタチアーナの我儘に呆れている中、渋々でも無く、乗り気で着替えることにした。


 騎士隊の隊服は男装に近いと言えなくはないが、男性に化ける衣服を着るのとはちょっと違う。

 なんだか変装するのも面白そうだとマリスは思った。

 と言うことで、マリスは男性騎士のために用意されていた衣服を着ることになった。



 そして……着替えが終わって出来上がった男装マリスは……


 皆がその仕上がりに息を呑んだ。

 タチアーナも、サーラまでもだ。

 そこに、絵画の中から出て来たような大変麗しい美少年が登場したからだ。

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