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25 ドレスを仕立てるはずだが

 タチアーナはイライラしていた。

 「今度ゆっくりと話しましょう」と言っていたセオドアが、なかなか会いに来てくれない。

 それどころか、軍事エンシューの予定について、だとか、ゼントラン王国のショーコー会のなんとかと面会する、だとか、意味の分からないことに付き合わされて、もううんざりしている。


 結局、小難しいことは侍女のグレタが対応してくれるのだ。

 祖国の父王への手紙こそなんとか毎日書いているが、結局いつも「今日の公務も順調でーす」の一行でおしまいだ。

 いや、天気の話も書いているから二行書いている。

 親愛なる父王陛下、とも書いているから、全部で三行だ。


 グレタはタチアーナの書く手紙を見て毎晩ため息を付いているが、約束は守っているのだから、文句を言われることは無いはずだ。

 対してニーナはちゃんと褒めてくれる。

 年齢はニーナが二十代半ばなのに対し、グレタは三十代後半だろうか。

 グレタには以前婚約者が居たらしいが、ニーナと同じくグレタも独身だ。


「タチアーナさまぁ、グレタ? 様ってぇ、あんなに口うるさいからぁ、婚約者? にも逃げられたんですよぉ。きっとぉ。

 嫌ですねぇ。ああいう風には? なりたくないですねぇ」


 ニーナはグレタの居ないところで、タチアーナにグレタの悪口を聞かせてタチアーナの機嫌を取っているようだ。


「そう…ね」


 タチアーナは、別に、グレタとグレタの婚約者に何が有ったかなんて知りたいわけでは無い。

 逆に言うと、ニーナがグレタのことを話すのはあまり聞きたくない。

 タチアーナは別にグレタの悪口を聞きたいとは思っていない。


 それよりも早く舞踏会のドレスを作りたい。

 セオドアと一緒に相談しながら仕立てるのだ。

 タチアーナは軍事エンシューなんかのためにゼントラン王国へ来たのではない。

 舞踏会でセオドアと踊ること、それがタチアーナの王女としての役割だ。

 そういうのが楽しいことなのだ。

 察したのか、ニーナが面白そうな話に切り替えてきた。


「タチアーナさまぁ、私良いこと聞いたんですぅ。

 この国でぇ、今評判の仕立て屋のサロン? が城下にあるらしいんですけどぉ、その横に、ゼントラン? で一番流行っているカフェ? が在るんですよぉ。

 このまま王城の中でぇ、人ぉ? を呼んでドレスを仕立てる予定でしたけどぉ……

 ねえぇタチアーさまぁ、セオドアさまぁ? を誘ってぇ城下に降りません?

 それでカフェ? 行ってぇ ドレスも仕立ててぇ、そしたらぁ楽しいに違いないわぁ」


 話がちょっと長かったけど、いい考え。素敵ね!


 セオドアと時間が過ごせて、ドレスが作れる!

 しかも二人でカフェに行くって、……それって、前にいた侍女が見せてくれた、恋愛小説に出てくる「あれ」ではないか!!


 小説自体は読むのに時間が掛かって面倒だったので、最初の何頁かで放り出したが、「あれ」の話は読んだ。


 タチアーナの言う「あれ」とはそう。

 愛し合う男女が一緒に美味しいお菓子を食べてお茶を飲むという「あれ」だ。

 つまりデートだ。


 タチアーナは、以前、デートに行こうと言う男性に誘われて行ったことがある。

 そのときはまだ、デートと言う言葉を知らなかった。

 男性は母国の子爵令息で、まあまあ見目が良かった。

 楽しいところに案内すると優しい笑みで言われたので、その令息のタウンハウスまで付いて行ったのだ。


 その令息は、タチアーナが連れて来た侍女を別室に待たせて、タチアーナだけを物置のような部屋に連れて行った。

 そして、ドアを閉めたとたんに、タチアーナに抱き付いてきた。

 タチアーナは埃っぽい床に押し倒された。

 しかしタチアーナが倒れた衝撃で、置いてあった棚が倒れてきてその令息の頭を直撃した。

 令息はそのまま意識を失った。

 令息を放置してタチアーナは物置を出た。

 タチアーナは自分の控えめな胸を触られたことがとても気持ち悪かった。


 その後、小説に出てきたデートという言葉を見て、全然違うと気が付いた。

 だから、ちゃんとした本物のデートにすごく憧れがある。

 本物のデートで、あの気持ちの悪い思い出を上から塗り替えたいのだ。

 それをセオドアとやるのだ!

 一気にイライラが吹っ飛んだ。


 そのとき、夢見る瞳になったタチアーナの前にゼントラン王国の騎士が二人立った。


「こうたいのじかんになりましたのでここからはわたくしどもがたんとういたしますよろしくおねがいします」


 を、すごい早口で言った茶色い髪の女の騎士と、黒髪の女の騎士が、二人同時に礼を取ってすぐに四歩下がった。


 タチアーナが口上を嫌うので、警護の騎士たちは早口で言い切って、すぐにタチアーナから距離を少しとることにしているのだ。

 距離を取ると言っても、警護上問題がない範囲でだ。

 さすがナターリエ王妃が主導するゼントラン王国の女騎士たちだ。

 色々心得ている。


 タチアーナの警護に当たる女騎士たちはだいたい年齢が高めだ。

 タチアーナの暴君ぶりを考慮してセオドアがそのように配置した。

 しかし、この黒髪と茶色い髪の女たちは、タチアーナとそう変わらない歳に見える。

 ニコリともしないでずっと立っている二人。

 茶色い方はまだしも、黒髪の方は化粧っ気すら無い。

 タチアーナが楽しいことだと思う、お菓子とかドレスとか宝石には興味が無いのだろうか?

 甘いものを食べて美しく着飾ること。

 彼女たちはそういう楽しさを知らないのか?

 タチアーナには不思議で仕方がない。


 そうだ! とタチアーナは思う。

 タチアーナはすこぶる機嫌が良いのだ。


「そこの黒と茶色い髪の、えーと、名前忘れたけど、騎士よね? あなたたち、一緒に付いて来なさい!」

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