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24 王女のはずだが 3

「いっやー、すごいな! あの王女振れないね! あそこまで行くと尊敬に値するな」

「ジャスティン、激しく同意します。

 我儘とかなんとか言われてても、国の代表として異国に来たら、緊張して、少しは大人しくなるのが普通だと思うんですけどね」


「脳みそカラッポで何も考えてないと、ああいう態度が取れるんだろう」


 セオドアが静かに呟いた。


(珍しいです! セオドアが悪口言ってます……)

(珍しいな! セオドアが毒吐いてる……)


 ここはセオドアの執務室だ。

 執務室には居るのは三人だけ。

 タチアーナから巻き散らかされた毒気疲れをほぐしている。

 だから毒ぐらい吐いてもいいのだが……


 フェリクスとジャスティンが目を見合わせた。

 最近、二人にはこういう仕草が増えている。

 セオドアにはそれも気に入らない。


 あの日のことをフェリクスとジャスティンは何も言わない。

 セオドアが話をするのを待っているのかもしれない。

 あの日とはセオドアが花を床に投げ捨てた日のことだ。

 あの日以降、武術鍛錬も行われていない。

 タチアーナ王女の来訪のため全く時間が取れなくなったからだ。

 つまりあの日以降、セオドアはマリスには会えていない。


 あの日の自分のあの態度に、まだ自らの答えは出せていない。

 なぜあんなことをしたのか考えるのが怖い。

 完璧な王太子になるべく磨いてきた自分の表皮が、剥れて何かが出てきそうだ。


「それにしても、ドレスを合わせたいとかって、また言ってくるぞ、どうするセオドア?」

「まったく、あの王女様は自分の立場も、世の情勢も何もご存知無いようですからね」


 ジャスティンもフェリクスも頷いた。


 ゼントラン王国と西の隣国と東の隣国、この三国間の関係性は今バランスが良くない。

 たかだか舞踏会とは言え、国賓の王女が公の場でセオドアと揃いの衣装で現れて仲良くダンスを踊ったら……

 この二人の婚約が濃厚になったと勘繰られて東の隣国を刺激する可能性がある。

 公式発表がなされていなくても、王族の振る舞いとはそれだけで外交上の意味があるのだ。


 セオドアはゼントラン王国の唯一の王子で王太子、当然次の国王になる。

 ゼントランが二代続けて西の隣国の王女を妃として迎えるとなると、この二国間としては微笑ましい話で済むが、東の隣国としては面白くないどころではないはずだ。


 実際、セオドアの祖母君は東の隣国の高位貴族だった。

 順当に行けば、セオドアの妃は東の隣国から迎えるのが望ましいのだ。

 これまで、表立ってではないが、東の隣国の様々な派閥から何度も打診が来ている。

 ところが、東の隣国の老王は、虎視眈々と開戦の機会も狙っているのだ。

 ゼントラン王国としても下手な婚約者は選べない。

 既に二十二歳になるセオドアが未だ婚約もしていないのはこのことが理由だ。


 セオドアはたった一人の王子なのだ。

 せっかく東の隣国から迎えたセオドアの妃が、実は暗殺者だったとなっては取り返しが付かない。

 故に不測の事態に備えてセオドアの更なる武芸向上が求められているのだ。

 決してナターリエ王妃の趣味的な希望が理由なことは……無くも無いが。


 一方で、ゼントラン王国が現在の王になってから、ゼントランと西の隣国の間では合同軍事演習に合わせて隔年で国賓が訪れる慣習になっている。

 この状況で他の王族や大臣級の高官ではなく、わざわざ、適齢期で婚約者もいない王女がゼントランを訪れることは、既にそれだけで意味が生じる。


 というのが、フェリクスが言った世の情勢を知る者の常識だ。

 だから当初、西の隣国からタチアーナ王女訪問の可否を問われた際、父王の娘可愛さによる浅慮にゼントラン王国側は呆れを通り越して怒りすら感じたのだ。

 そのため、ゼントラン王国から西の隣国へは、丁重に、別の適任者への変更を願う旨の返事を返した。


 ところが、しばらくのち、西の隣国の王から別の内容の書簡が届けられた。

 そして、今度はセオドアも了解してタチアーナの訪問を受け入れることになった。

 書簡には、西の隣国だけでなく、ゼントラン王国にも(わざわい)をもたらそうとする(はかりごと)の存在が書かれていた。

 これに、タチアーナ王女が関係していると見られるそうだ。

 そこで両国は全容解明のために、その企みに乗ってしまったフリをすることになった。

 国同士の微妙な関係性、更に策略の渦中でもあるという、薄い氷の上に、セオドアは、今、乗っている。



「問題ない。ドレスは適当に作ってやろう。それで頭カラッポ王女が喜んでくれるなら世話無いさ。

 当日、私が何を着るかは別だ。上手くやればいい」


「……まあそうだな、セオドア。

 俺も賛成。あの王女と無駄に波風立てたくないしな。

 ところで、フェリクス………あの話ってセオドアにしたのか?」

「………いや、まだです。私もさっき書類見たとこだったし……」


 どうしたのだろう。

 フェリクスとジャスティンが言い淀んでいる。


「二人共、どうしたんだ?」


「「……」」


 フェリクスがセオドアの執務机にある未決書類の箱から、一つの書類をセオドアに差し出した。

 今回のタチアーナ滞在中の警備体制に関するものだ。

 セオドアも随分前に目を通したはずなのに、再度未決書類箱に戻されている。


「……セオドア……ここ見てくれ。ここだけ変更になってるんだ」


 ジャスティンが指さしたのは、タチアーナを警護する要員配置についての頁だった。


 瞬間、セオドアは心臓が止まりそうになった。目を見開く。


 タチアーナを一番近くで警護するのは女騎士だ。

 交代制だが少数で担う。

 数が多いとその分綻びも出やすいのだ。

 その要員リストの一番最後に追加人員が記載がされていた。


 警護要員名:マリス 所属:王立騎士団第四隊 階級:騎士隊員(女性)

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