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20 嫌がらせはする方だったはずだが

 実を言うと、ザルノール公は地味で陰湿な『嫌がらせ』を幼少期からセオドアにも施していた。

 セオドアの側近二人も王妃による武術鍛錬が始まって数年経過するまで、そのことを知らなかった。

 セオドアには、基本、常にフェリクスかジャスティンが側に付いていたのだが、ザルノール公は、ほんの僅かな隙を狙ってセオドアの傍までやって来ては、おかしなことを耳打ちして行くのだ。


「今の王様の母君は正妃だったのに出奔した。

 だから王様は捨てられた王子だったんだ。

 王様に言ってはいけないよ。王様が可哀想だから」


 まったく不敬極まりないが、これは事実だったので、騒ぎにすると父王に申し訳ない気がして、セオドアの胸の内に留めることにした。


「ナターリエ王妃には想い人がいて、王と王子を裏切っている」


 こちらも不遜なことは間違いないが、フェリクスによると確かに想い人がいる可能性が高い。


 しかしだ。想い人などと刺激の強い言い方をしているが、単に『憧れ』の程度であれば、誰かに咎められることでもないはずだ。

 人の心までは縛れないのだから、不貞があるならまだしも『裏切る』という言い方はおかしい、と言うのがセオドア、フェリクス、ジャスティンの総意だ。

 もう幼いとは言えない少年三人でそういう結論に達した。


 でもやはり騒ぎにすると、王妃の気持ちはもちろんだが、王の誇りを傷つけることにもなりかねない。


 他にも、


「王は、自分が王になるためだけに王妃と婚姻を結んだ」


 や、


「王は、西の隣国からの支援目当てで、王妃のご機嫌取りに余念が無い」


 というのもあった。

 本当に腹立たしいが、狡猾なザルノール公は、微妙に全く違うとも言えないところを突いて来るのだ。

 そもそも、王族の婚姻とはそう言うものなのだから、つべこべ言われる筋合いでも無いのだが。

 ただしかし、子供と大人という圧倒的な差もある。

 まだ小さい子供の頃のセオドアは、自分の父と二歳しか違わないザルノール公に言い返せないでいたのだ。

 繊細な内容のため、誰かにこのことを話すこともできなかった。



 だが、後継者としての自覚を得たあとのセオドアは、もう幼いという歳を越えていた。

 ここからは、いいように操られたりしない。


 反撃開始だ。



 ある日、ザルノール公が久しぶりに王城を訪れるという日、セオドアは敢えて一人で目立つように、四阿にいて本を読んでいた。

 ザルノール公は目ざとくセオドアを見つける天才だ。

 早速、上品な笑みを湛えて近付いて来た。


「王子、ごきげんよう。

 また大きくなったね。

 それより、今日は側近たちは居ないのかい?」

「ごきげんよう、叔父上。

 もう私も十一歳になったので、側近と常に一緒に居るわけではないのですよ。

 自分だけの時間も欲しいのです」

「そうかそうか。

 それより、お母上は、ナターリエ様は、随分丸くなられたと言うか……

 女性らしい優しさに溢れておいでになったね……

 なんだろう、想い人と上手くいったんだろうか……」


 ザルノール公は思わせぶりに首を傾げた。

 セオドアはザルノール公を真っ直ぐに見て言った。


「叔父上、その想い人のことですが、どなたなのですか?」


 ザルノール公は、セオドアから質問が返って来るとは思っていなかったようでたじろいだ。

 ザルノール公は、王妃の醜聞を聞いたセオドアの幼気(いたいけ)な美貌が、色を無くして固まってしまうことに嗜虐的な喜びを感じていたのだ。

 なんて奴だ。まったく。


 しかも、実は想い人などとはザルノール公の根拠の無いデマカセなのである。

 前王の正妃が愛人と逃亡したという特大の醜聞を元にしたが、この王子にも同じような呪いが掛かればいいと、適当に話をでっちあげて『嫌がらせ』をしただけだ。


 セオドアはザルノール公の態度を見て、はっとそのことに気が付いた。

 あんなに思わせ振りに言ってきたのに、具体的な話は何も無さそうなのだ。

 セオドアとしては、単に『憧れ』程度のことなのに、さも意味ありげに言ってくるザルノール公へ抗議しようとして話を振ったのだが、予想外の反応が返ってきた。


「いや、あの、それは……そ、その、えー? なんだったか、何の話だって?」


 すかさず、セオドアはザルノール公に鋭く言い返す。


「叔父上、いえ、ザルノール公、もし根拠なくそのようなお話をされたのであれば、王妃殿下、そして王陛下への不敬罪が成立しますよ」


 ザルノール公に王位継承権は無い。

 それも西の隣国から支援を受ける際の条件だったからだ。

 あくまで、ナターリエと血の繋がった者が王の後継者となることを西の隣国は求めた。

 ナターリエがステファンに輿入れした時点で、ザルノール公は国を継ぐ者から外されている。


 つまり、ザルノール公は真に王族と言える地位にもなく、そのザルノール公が王妃を侮辱する発言をしたとなれば、不敬罪にも問えるだろう。

 セオドアは重ねて聞いた。


「それで、ザルノール公。あなたは、嘘偽りなく、王妃殿下に愛人のような者がいると本当に言うのか?」


 十一歳にしかならないセオドアは、しかし威厳を持って大人のザルノール公に問うた。


「……そ、そん、それ、そんな、ことは……い、い、言いまてん!」


 今回はザルノール公が真っ青になってセオドアに返事をした。


「……分かった。

 そうだ、ザルノール公、私に剣の稽古を付けてくれ。

 はい、剣はこれを持って。

 はい、ここに立って。

 それでは、始め!」


 更にセオドアは続けざまで、有無を言わさず、ザルノール公に剣術の鍛錬の相手を承諾させた。

 いや。承諾も何も、する前に開始した。


 そしてセオドアは、ナターリエ仕込みの剣技をザルノール公に見せつけるように披露した。

 このとき、ザルノール公は直接身体に模造剣を打ち込まれることは無かったが、気迫のこもった剣で何度も切られたような感覚を受けた。

 そして、立ち上がれなくなった公は、それからは王城に来なくなった。

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