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02 マリスは花形騎士のはずだが

 ここはゼントラン王国直属の騎士団本部中央棟の四階。通称女子階。


 中央棟は堅牢な造りの四階建で、横に長い建物の両端に二か所ずつ全部で四か所の出入り口を持つ。

 その四つの内二か所は女性専用の出入り口となっておりそこから先は女性だけが使える通路と階段に繋がっている。

 そしてこの階段は直接四階フロアに直結している。

 四階以外の全ての階を繋ぐ階段は別に設けられているが、他の階から四階に行くことはできない。

 四階は完全に独立しているのだ。

 つまりここ四階は女性限定のフロアであり、例え国王陛下でも男性は立ち入ることができないと定められている。



「何あれ? 今日の訓練見た?! あの女! マリスってば誰彼構わず男に媚売ってるよね!」


(こび? 媚って、誰彼って……。

 いや、騎士団の訓練のなんだから、いろんな相手と対戦するよね?)


「見たー。だから女騎士じゃなくて男性騎士たちの方にわざわざ紛れ込んでるのよ! 信じられない!」


(いやいや、女騎士って枠が有るの知らなかったんだってー)


「昨日も王太子殿下の『お相手』をしたらしいじゃない?」


(『お相手』ってニュアンスつけるのやめて!

 武術鍛錬の相手だからね! お茶の相手じゃないからね!

 そもそもあちらの『嫌がらせ』……だからね)


「殿下の側近の方まで! あの女と汗だくで個室から出てきたんですって!」


(いや、だから鍛錬だって……、汗かいたらだめなの?)


「もう! 存在自体が下劣!」


(ええええーーーー)



 話をしているのは女騎士たち。

 女騎士枠で採用された者たちだ。

 今、彼女たちは更衣室にいる。

 更衣室は女子階にある。


 ロッカーの列の裏側で噂話の主人公であるマリスがいることを、彼女たちは分かっていて話に花を咲かせているのだろう。

 マリスは髪をまとめていた革紐をほどき、一つ括りにしていた黒髪をサラりとかき上げて音を立てずにため息を付いた。




 今も騎士団には男性が圧倒的に多いとは言え現在の王になってから女騎士の採用枠が設定された。

 女騎士、これがなかなか花形の職業になっている。


 『女騎士枠』の制度は導入されて五年以上経つが王都近辺以外では今でも認知が進んでいない。

 だが発案したのは王の唯一の妃だ。

 発展途上であっても王妃主導ともなれば小手先の改革には留まらない。

 王妃は武芸を尊ぶ武の道の人だ。

 ともかくこの制度のお陰でゼントラン王国の騎士団には女性の騎士や職員も一定数が確保されている。


 当然のようだが女騎士は女性だけがなれるのだ。

 騎士は武術に優れていなければいけないし女騎士も騎士の称号を授与されれば当然それに恥じぬよう日々研鑽に努めなければならない。


 しかしながら女騎士は戦争時に前線に立つ要員ではない。

 お飾りではないが実務上男女の別は明確に有る。

 それが女騎士だ。


 もちろん男性騎士に匹敵するような筋力自慢や剣技自慢の女騎士も存在するが女騎士の主たる職責は要人を警護することだ。

 特に警護される要人が女性の場合、女騎士が警護要員になることで警護のしやすさや確実性が格段に上がった。

 それを見越して女騎士枠の採用試験では所作も科目に入っている。

 要人警護に際してはときに腕力と同じぐらい洗練された所作や知識が必要とされるからだ。


 そのため身分は問われないと言っても女騎士の出自は親族に騎士爵を持つ家系の者、王都周辺の裕福な平民、そして一般の貴族令嬢で構成されている。


 その分女騎士が、盗賊の討伐、災害復旧の力仕事、国同士の諍い、と言った、キツイ汚い危険な仕事に就くことは基本ない。



 ところでマリスは女騎士枠の騎士ではない。

 マリスは平民の女性だ。

 そして王都から遠く離れた地方出身のため女騎士の募集があることを知らずに男性と同じ枠で採用試験を受けて合格した変わり種だ。

 採用試験には故郷から出てきたマリスが王都に着いた翌日に受けて合格している。


 合格したのにも皆が納得だ。

 採用された年の剣術大会で準々決勝まで進んだ。

 もちろん新人としては異例の好成績だった。

 その後職務の関係で大会には出ていないが今年は優勝も狙えると大会前に言われていた注目株だった。


 注目されていたのは女性だからというのも少しはあるがそれより実力が考慮されてのことだ。

 女騎士制度のお陰でマリスが女性だからと悪目立ちすることは無い。

 少なくとも剣術大会の前は無かった。


 何よりマリスは武芸を磨き土砂災害の現場に赴き昨年などは東の隣国との小競り合いの際に最前線で剣を振るって功績を上げた。


 ここまでの成果を上げているのだ。


 歳は二十歳。

 癖の無い黒髪と少し茶色がかった形の良い黒の瞳にすっと通った鼻筋も、美人の部類に入れて良いはず。

 黒い眉は手入れをしなくてもキリリと凛々しい。

 背は女性の騎士の中でも高め。

 普段は厚手の布でできた胴衣を着て、その上からシャツと更に厚手の隊服を着用していて一見分からないが、もちろんその均整のとれた筋肉と骨格はとても美しい。


 何より瞳の素直さには彼女の実直な性格が表れている。

 決して言われていたような媚は感じられない。

 それがマリスだ。

 本来なら男性女性問わず人気が有ってもおかしくない。


 しかしマリスは今、ほぼ孤立無援の状態だ。

 王太子から嫌がらせを受けているマリスを庇える者はいない。



 マリスは出て行きづらくなって声が遠く聞こえなくなるまで待ってから、こそこそと自分も更衣室の外に出た。

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