17 閣下以外も気付いていいはずだが
何事もちゃんと聞いてみるものだ。
剣術大会より以前から、王太子の武術指南を担う人材を探す作業が進んでいた。
しかし、剣術の方は複数の候補者が挙がるものの、体術の方は適任者がなかなか見つからない。
王国内における体術の使い手は伝統的にかなり大柄で筋骨隆々の猛者ばかりだ。
対して、王太子が必要とする体術指南役は、そんな分かりやすい相手だけでは困るのだ。
王太子のための体術とは競技のためのものではない。
刺客から身を守るためのより実践的なものだ。
その地位にあるのだから護衛は侍っているが、母である王妃は王太子本人に自ら身を守る素養を付けて欲しいと望んでいる。
自分を守れるのは最終的には自分だからだ。
つまり、セオドア王太子が、ナターリエ王妃が求めている体術の指南役は、衣服を着ていれば一見そうと見えない背格好で、かつ使い手という者の方が相応しいのだ。
傭兵や国外の諜報機関出身者などからも指南役を探していたが、国防上、王国民であれば理想的なことはもちろんなのである。
そこでマリスに白い羽の矢がプスッと刺さった。
とりあえずセオドア王太子より強そうで小柄だ。
しかも王立騎士団所属で身元もはっきりしているし結構功績も上げているではないか。
更には、調べてみるとマリスは、剣術はもちろんだが体術の方がより秀でており、騎士団の中でもその実力は折り紙付きだった。
こんなに有望な人材が埋もれていたのかとびっくりしたが、一番驚いたのは華奢だと思っていたら女性だったということだ。
逆に女性だったために、騎士団幹部が作成していた候補者リストから漏れていたのだ。
しかし当然、女性の刺客も存在するのだから、マリスならそれを想定した訓練にももってこいだ。
もうとにかく、流星のごとく舞い降りた願ってもない指南役。
それがマリスだった。
「セオドアくんの要望あってのことだけど、騎士団でも複数の幹部で再検討したの。
その上で賛成ってことになってたのよ。
まあ、王妃様がとっても乗り気だったから、王様もみんなも、仕方ない、……納得した感じかな。
マリスちゃん分かった?」
(マリスちゃんがセオドアくんの指南役やるって話は別件があるから、おもしろ、……とにかく、良い機会だと思ったのよね。
ちょっとその後の展開がマリスちゃんには可哀想だったけど)
「うーん。ガーくん、なるほどね。……そうか。
私が指南役でいいってことか。
なんかね、ずっと……『嫌がらせ』されてると思ってたから……」
フェリクスとジャスティンが顔を見合わせた。
「マリス先生、その、……そう思われるのも、確かに仕方無いかもですが。でも……」
「でもさ、『嫌がらせ』とは違うよな。それは断言できる。けど。
セオドアは、なーんか、マリスのことになると意固地になるんだよね。
『意地悪』の方が合ってるかな?
いつもは、人間の完全体をやってる奴なんだけど」
あれは、人格者王太子の『嫌がらせ』じゃなくて『意地悪』だったのか?
「あの、……私、時々、王太子殿下がすごく、
とても、いや若干、少しだけ……
……小さな……お子様のようなことを……おっしゃるような気が……することがありまして」
マリスは、言いにくいことを言ってみた。
「……それですね!」
「……それだな。……あいつ、セオドア、幼くなるんだ。マリスの前だと」
__ ああ、そーいうことね。そんなホントに面白いことになってるわけね。
マリスちゃん絶対その辺鈍いし、セオドアくんも分かってないっぽいのね。
うーんと、……とりあえず、側近二人に働いてもらうのが良さそうね。
そうなると、……この際、陛下にもいい加減折れてもらわないと……
それにしても、マリスちゃんとセオドアくんかぁ……
……悪くないわね! __
戦場の虎、ティーガー騎士団団長閣下の目の奥に妖しい火が灯った。




