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12 嫌がらせのはずだが


 セオドア王太子の武術指南の時間は、マリスにとっては当初、拷問にも近い時間だった。



 しかし、慣れとは恐ろしいものだ。

 マリスも徐々に王太子と過ごす時間が騎士団の訓練のときと変わらないような心持ちになってきた。

 それどころか、その時間を有意義なものだと感じるようにすらなってきた。

 指南といっても、同時にマリス自身の鍛錬にも当然なっているのだ。


 セオドアはもともとが剣術体術共に小さい頃から触れてきたという使い手だ。

 そんな彼と一緒に鍛錬することはマリスにとっても価値が大きい。

 しかも、セオドアの知識の豊富さや派手な戦法に偏らない真摯な姿勢はマリスから見ても興味深いし好感が持てるものだった。


 いやいや、全国民が尊敬してやまないのがセオドア王太子なのだ。

 マリスがこれまで知らなかっただけで、セオドアとは好感度の塊のような人なのだ。

 初対面での綺羅綺羅しい光景に引き摺られた上に、嫌がらせ攻勢を受けた結果、セオドアに対する負の印象が先行してしまった。

 が、本来、「セオドア」とはすなわち「人間の理想形」と同義だと人々は言うらしい。

 そんな話があながち大袈裟で無いことをマリスは実感するようになってきた。

 うがった見方で自分は凝り固まっていたのかもしれない。

 今でもマリスは城下の子供たちに見つかれば石を投げられる。

 女騎士たちからの聞こえる陰口もあとを絶たない。

 そんな絶望的な状況に自分は置かれているが……。


 とりあえず、段々と王城で王太子相手に鍛錬することがマリスとしても楽しめるようになってきた。

 結構ほんとに楽しい。


 名前呼びの件は相変わらず諦めてくれない王太子だが、


「マリス。私は長期戦を覚悟することにしたよ」


 などとおっしゃって、毎回要求されるようなことはなくなった。

 代わりにマリスが休憩中など、少し気を抜いた瞬間を目ざとく見抜いて、早口で、


「マリス! アドオセを反対からを言ってみて」

「セオッ?……んっ!」


 などと、だまし討ちのような技を掛けてきてはマリスにセオドア呼びをさせようとする。

 そして、太陽のような笑顔で微笑むのだ。

 ……そういったことも、ちょっと楽しい。

 かもしれない……



 故郷にいる頃シャールやケビンと共に鍛錬していたときも楽しかった。

 騎士隊の訓練も充実している。


 でもなんというか、王太子との取り組みは、ひとつひとつの動きに意識が注がれているのだ。

 それがおもしろい。

 王太子からの質問にはっとさせられることも結構有る。

 初心に帰れるというか鍛錬そのものの中身が濃いと言える。

 こういうふうに武芸そのものを目的として関わることができるだなんてマリスはこれまであまり考えていなかったのだ。


 分かりやすくマリスの子供の頃からの夢は天下一の剣術使いになることだった。

 その後、シャールはもちろん、どうやってもケビンにも勝てそうにないことが分かり一旦方向性を見失いかけた。

 でもマリスは騎士になって国を守るとか誰かの役に立つという現実的な目標にシフトして、そして現在の騎士と言う立場に至っているのである。


 そこから今度は武術の基本に立ち戻り、手段ではない武術自体を楽しんでいる状況に自分はいると思う。

 王太子との関わりの中で見出すことができた新たな心の境地だ。

 その境地がじわじわとマリスに喜びを感じさせている気がする。



「んーーん? あれ? 嫌がらせじゃなかったのかな?」


 マリスは思う。

 しかし腑に落ちない。

 王太子は……マリスを悲惨な状況下に陥らせているのもまた事実なのだ。


 実際、騎士隊の女騎士や女性職員たちはマリスを蛇蝎のごとく敵視しているし、男性騎士も問題が己に飛び火するのを恐れて訓練以外はマリスに近付いてこない。

 王国民の反発も相変わらずで迂闊に城下を歩けない。

 ケビンが詳細を語らないのでマリスはよく知らないが、貴族を始めとして毎日のように第四隊に抗議の書簡を送りつけてくる方々も結構いるそうだ。


 そのため始めは、「王太子がマリスを騎士隊で孤立させて自ら辞職を言い出すように仕向けているのでは?」とか、「マリスの綻びを見つけて投獄させようと目論んでいるのでは?」と考えて戦々恐々の日々を送っていた。


 でもでも大変な人格者であるはずの王太子が『嫌がらせ』というのも……確かに矛盾している。


 マリスには、他にも適任者が居るだろうに、自分をわざわざ指南役に据える意味が分からなかった。

 だから『嫌がらせ』だと解釈していた。

 それが一番しっくりきたしケビンも同意見だった。


 だいたい王族のお考えというものが平民の自分に計りきれる気もしなかったので、その矛盾のわけも自分の理解を越えたところに答えがあると思っていた。


 王太子からマリスに表立った罰を下す判断は国を統べる者として出来かねる、が、かと言って放置しては王国の威信に関わる、とか?

 そんな感じなのかもしれないと。


 ともかく少なくとも誰かを巻き込まないように耐える以外の方法は無いと考えていた。



「それでも……」


 そもそも本当に王太子の『嫌がらせ』でマリスが陥れられているのであれば、

 今こんなに武術指南が楽しいって変……ではないのか?


「武術にはその人の心が映るはず。王太子殿下の剣技は……」


 そう! それだ! 武の道を行く者はその人の闘い方を見ればいいのだ。


「王太子殿下の剣技は、まっすぐで淀みが無い」


 マリスはその基本を忘れていた。

 色々有って、心が荒れて、見るべきものを見ていなかったのではないだろうか。


 そうなのだ。

 マリスになら分かるかも知れない。

 剣技、体技、それらを繰り出す筋肉。

 そう。筋肉と対話するのだ!




 ……誰だ? マリスに変なこと教えたのは!

次回「ポット……のはずだが」です

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