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11 これまで何度もやっているはずだが


 本日のマリスによる武術指南は、セオドアが手首を軽くねん挫したため急遽内容を変えて行われた。



 セオドアはマリスとの鍛錬の中で負傷したのではない。

 王城の外階段で躓いた官吏をたまたま近くにいたセオドアが咄嗟に庇ったのだ。

 お陰で官吏は無傷だったが、セオドアは手首を少し痛めた。

 セオドアだったからその程度で済んだのだろう。

 しかし初老の官吏は真っ青になって立ち尽くし、言葉も発せられないくらいに震えてしまった。


 セオドアは柔らかな表情を崩さず、


「雨上がりだったから滑ったみたいだけど、ロイが無事で本当に良かった。

 このあとは大事な会議が控えているだろう?

 君の頑張りで王国の未来は開けるんだから。ね。

 大丈夫? 動けないならお姫様だっこでもしようか?」


 と官吏の緊張をほぐすために大袈裟気味に言って、冗談めかして笑った。

 官吏は感涙にむせび泣いて、でも気を取り直した様子でもの凄い気合を入れて会議に臨んでいった。

 会議の議題は王城の清掃体制に関するものだ。

 王城はピカピカに磨かれることだろう。


(これがいつものセオドアですね。

 セオドア足るセオドアですね)


 フェリクスはうんうんと頷いた。



 セオドアにはマリスの武術指南を中止する選択肢もあった。

 それほど重症というほどでもなかったが無理をすることもないからだ。

 しかしセオドアは中止を良しとせず予定通り鍛錬に臨んだ。


 セオドアは言った。


「こういう負傷したときにこそ鍛錬する意味があるんだ!

 私が元気なときばかりに刺客が襲ってくるとは限らないからね。

 だからねん挫した状況での訓練。大変意義深いね!

 今日は絶対、行うべきだ! うん」


(これも……いつものセオドアなのか?

 別に鍛錬はやればいいけど。

 大した怪我じゃないんだし、そんな意義無くても良くないか?

 いやでも…あるのか?)


 ジャスティンはとりあえず納得することにした。



 そして武術鍛錬は予定通り行われた。

 いつもの挨拶のあと、セオドアはいつもの準備運動から始めようとした。

 マリスは言った。


「えー、セ、オドア王太子殿下、今日はいつもと趣向を変えた鍛錬をいたしましょう。

 鍛錬は様々な種類を行うことも大切です。

 鍛えたい筋肉ばかりを鍛えるより、バランスの良い鍛錬が結局は良い結果を生みます」


 もっともらしいことを言ったが、この辺の理論はケビンからの受け売りだ。

 まあ、マリスも意味が分かって言っているのだから問題無いだろう。


「マリス。それは興味深い……

 いつもと違うというのもワクワクするね」


 セオドアは本当にワクワクして言った。

 あ、王太子も鍛錬は楽しいんだ、とマリスは今更思った。

 楽しんでいる様子はこれまでも示されていたが、なんだか今のは、すごく本心っぽかった。

 なーんか……嬉しい。


「それで、マリス、いったい何をしようか?」

「足指の鍛錬です」

「足の指!」


(足指まで! マリス先生、鍛えてるんですね……)

(足指かあ! マリス、髪の毛とかも鍛えてそうだな……)


 セオドア、フェリクス、ジャスティンが声にならない会話をした。


 とりあえずセオドアは期待に満ちた顔になった。

 手首の負傷だから下半身の運動は出来そうなものだが、極力安静にするためにはもっと末端のつまり足指だけの鍛錬が良いとマリスは判断したのだ。

 実際マリスは自身で足指の鍛錬も行っている。

 これもシャールの教えによるものだ。


 マリスは侍女に頼んで適当な布を持ってきてもらい、それを足指で掴んで引っ張り合うという運動を提案した。


 早速セオドアとジャスティンが履いていた靴と靴下を脱ぎ、椅子に腰かけて向かい合い、布の端と端を引っ張り合った。

 あっという間にセオドアが勝った。


 それからフェリクスも加わり、マリスの指導で指を変えたり足の向きを変えたり、セオドア、フェリクス、ジャスティンの三人同時でやったりと様々な方法で布の引っ張り合いをやった。

 セオドアの両足対、フェリクスとジャスティンの片足ずつ、で対戦もした。


(た、たのしい!)


 今のは誰の気持ちだろう。

 ……多分みんなのだ。マリスも含めてだ。

 セオドアは強いが一人対二人での対戦になるとさすがに苦戦した。

 マリスは思わず声に出す。


「セオドアさま、頑張れ!」


 セオドアの心臓に、んぐっと何かが刺さった。

 でも布を離さずに耐える。

 マリスが応援してくれたのだ。ここは頑張らねば。

 しかも……、「セオドア様」という呼び方を初めてしてくれた!

 体温が上がる気がする。


「はー、なんか汗かいてきた。結構いい運動になるな」


 ジャスティンが言った。



「マリス先生も参加されませんか?」


 休憩のときにフェリクスが提案したのでマリスもそうすることにした。

 そしてマリスがおもむろにトラウザーズの裾をめくり片方の靴と靴下を脱いだところで、お茶を飲んでいたセオドアが急に立ち上がった。


「マリスはいい! 今日は三人の指導に専念して欲しい。

 ……そう! マリスは審判だ」


 残念。見てるだけよりマリスは参加したかった。

 マリスは再び靴下と靴を履き直す。

 セオドアはなぜか急に窓際に寄って外を見だしたが、後ろから見える耳がたいそう赤い。


 マリスは自分の足元を見ていたので分からなかったが、側近二人はさすがに気が付いた。


(……どうしました? セオドアがおかしいです)

(……いや、なんで? 完全に見たことないセオドアだぞ)


 体術の鍛錬で草の上で裸足になったりは、これまでマリスも含めてみんなで何度もやっているはずなのだが……


 しかし、今日のセオドアには目の前で素足を出したマリスを直視することが出来なかった。

 そして、マリスのその姿をフェリクスとジャスティンには絶対見せたくなかったのだ。

次回「嫌がらせのはずだが」

物語が動き始めます

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