概念の中和
ユキは、目の前で苦悶の表情を浮かべるアリアと、鑑定ウィンドウに表示された【伝説の聖剣の核】という文字を交互に見比べた。
(リスクは高い。呪いが解けた瞬間、聖剣の核が俺の生命力を喰らうかもしれない)
だが、ここで見捨てれば、彼女は確実に死ぬ。
そして、この「試練」とやらからも抜け出せないだろう。
何より、ユキは気づいてしまったのだ。
この【概念鑑定】という力は、戦うためではなく、こうして隠された「真の価値」を見出すためにあるのだと。
「……賭けるしかない」
ユキは覚悟を決めた。
問題は、どうやって【生命力を吸う呪い】という概念を無力化するかだ。
呪いとはいえ、それは強大なエネルギーの流れ。
ならば、その流れを別の場所へ逸らし、中和してやればいい。
(この洞窟にあるもので、エネルギーを吸収できるものは……)
ユキは、周囲の壁に点在する「淡い光を放つ鉱石」に目をつけた。
以前見た【ヒカリゴケ】とは違う、明確な魔力の気配がある。
彼はすぐさま、その鉱石に【概念鑑定】を発動させた。
【 魔力貯蔵石 】
・内包概念:【魔力の吸収と飽和】
・情報:周囲の過剰な魔力を無差別に吸収する性質を持つ。許容量(飽和点)を超えると、吸収した全エネルギーを無属性の光エネルギーとして強制的に放出する。
(これだ!)
ユキはアリアに向き直った。
「アリアさん! あなたのその呪い、俺が解いてみせる!」
「……何を、言って……もう、手遅れだ……」
「手遅れじゃない! 俺のスキルがそう言ってる!」
ユキは、彼女が握りしめる大剣の柄に、自分の手を重ねようとした。
「やめろ! 触ればお前も……!」
「大丈夫だ!」
ユキは構わず、アリアの手の上から大剣の柄を握りしめた。
凄まじい冷気と、生命力を吸い上げられそうな強烈な不快感が腕を走る。
だが、ユキは歯を食いしばり、その手を鉱石が埋め込まれた壁へと誘導した。
「今から、この鉱石に呪いのエネルギーを全部押し付ける! 飽和させて、強制的に放出させるんだ!」
説明は最小限。ここからは速度勝負だ。
ユキが大剣の切っ先を鉱石に突き立てた、その瞬間。
「――ッ!?」
鉱石が、まるで飢えた獣のように大剣から黒い瘴気を吸い上げ始めた。
凄まじい勢いで呪いのエネルギーが流れ込んでいく。
「ぐ……ああああああああッ!!」
アリアの絶叫が洞窟に響き渡った。
呪いが引き剥がされる苦痛か、あるいは聖剣の核が反応しているのか。
鉱石は黒い瘴気を吸い込むたびに輝きを増し、やがて限界を示すようにパチパチと火花を散らし始めた。
(まずい、飽和する!)
ユキが離れようとした直後、鉱石が限界に達した。
カッ!!!!
洞窟全体が、太陽を直視したかのように真っ白な光に包まれる。
鼓膜が破れそうなほどの甲高い音と共に、凄まじい魔力が解放された。
ユキは爆風で壁に叩きつけられ、視界が明滅する。
(……成功、したのか?)
光が収まり、黒い瘴気は完全に消え失せていた。
見ると、アリアの手からあの大剣が滑り落ち、地面に転がっている。
呪いは解けたのだ。
消耗しきったアリアが、壁にもたれたまま荒い息を繰り返している。
「……助かった、のか……?」
ユキが安堵のため息をつこうとした、その矢先だった。
バチッ、と。
アリアの全身から、先ほどの光とは違う、黄金色の魔力が溢れ出した。
彼女の瞳が、消耗しきっていたはずなのに、カッと見開かれ、危険な赤色に輝く。
彼女は、地面に落ちていた剣――いや、呪いが解け、真の姿を取り戻しつつある「聖剣」を瞬時に拾い上げると、その剣先を、一直線にユキの喉元へ突きつけた。
「――お前、何者だ?」




