表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「オーバーライト・ワールド 〜価値なきもの、世界を救う〜」  作者: 伝福 翠人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/18

創造主の試練

転移の直後、ユキを襲ったのは強烈な浮遊感ではなく、じっとりとした湿気と、濃密な「死」の匂いだった。


「……ここは、本当にダンジョンの中か?」


ユキは荒い息を整えながら、周囲を警戒した。


先ほどのガラクタ市とは比較にならないほど、空気が冷たく重い。

岩肌を伝う水滴の音だけが、不気味に反響している。


(あの男は……追ってきていないな)


ひとまず最大の脅威からは逃れられた。

だが、状況は最悪だ。


戦闘スキルを持たない彼が、モンスターの巣窟であるダンジョンに、丸腰で放り出されたのだ。


(落ち着け。まずは状況の確認だ)


ユキは自らを叱咤し、視界の隅に浮かぶウィンドウに意識を集中させた。


世界の寿命――365日。


あの絶望的な情報が、嫌でも思考を現実に戻す。


生き延びなければならない。

あの組織から逃げるためだけじゃない。

あの情報が真実なら、なおさらだ。


(食料と、安全な場所。それが最優先だ)


幸い、今の彼には【概念鑑定】がある。


ユキは目の前の、不気味に発光するこけに意識を向けた。


【 ヒカリゴケ(亜種)】

・内包概念:【微弱な魔力光】

・情報:食用には適さない。魔力を帯びているため、一部の小型モンスターを引き寄せる性質を持つ。


「……危なかった」


知らずに触れていれば、モンスターの餌食になっていたかもしれない。

ユキは慎重にヒカリゴケを避け、壁際を進んだ。


ダンジョンは、一見すると無価値なもので満ちている。

だが、その一つ一つが「概念」を持っている。


次に彼が見つけたのは、湿った岩陰に生えていたキノコだった。


【 シメリタケ 】

・内包概念:【水分の貯蔵】

・情報:可食。味は無いが、豊富な水分と最低限の栄養を含む。毒性なし。


(食料、確保)


ユキは即座にそれを採取し、懐にしまった。


これがもし以前の【鑑定】スキルなら、「キノコ。食べられる」程度の情報しか得られなかっただろう。

だが【概念鑑定】は、それが持つ「本質」――この場合は【水分の貯蔵】という概念まで暴き出す。


(この力があれば、戦えなくても生き残れるかもしれない)


希望の光が、ほんの少しだけ見えた気がした。


彼は鑑定能力をフル活用し、危険な罠(【圧力感知式の床】という概念を持つ岩)を避け、モンスターの気配(【縄張り意識】の概念を持つ空気の淀み)を察知しながら、ダンジョンの深部へと進んでいく。


どれほど歩いただろうか。

疲労が限界に達し始めた頃、彼は小さな洞窟を発見した。


(ここは……)


【 風抜けのほら

・内包概念:【安定した構造】【魔力の遮断】

・情報:ダンジョン内の魔力の流れから隔離された稀有な空間。モンスターは感知できず、侵入しない。


「……安全地帯だ」


ユキは、崩れ落ちるようにして洞窟の中へ滑り込んだ。


ようやく一息つける。

背中を冷たい岩壁に預け、張り詰めていた緊張の糸をゆっくりと解きほぐす。


(助かった……。しかし、これからどうすれば)


地上に戻る方法は? あの組織の正体は? そして、世界の寿命とは?

考えるべきことは山積みだ。


ふと、彼がもたれていた壁に、何か硬い感触があることに気づいた。

ただの岩壁ではない。何か、人工的な……。


ユキは疲れ切った体に鞭打ち、その壁に【概念鑑定】を発動させた。

視界に、情報ウィンドウが展開される。


【 試練の碑文 】

・状態:封印中(起動条件:鑑定)

・内包概念:【創造主の意思】

・情報:解読を開始します――


『我、このダンジョンの創造主。』

『愚かなる世界の真実を探求し、この最深部へ辿り着いた侵入者よ』

『汝に、最初の試練を与えん』


「な……!?」


ユキが文字の意味を理解した、その瞬間。


ゴゴゴゴゴ……ッ!


凄まじい地響きと共に、彼が入ってきた洞窟の入り口が、巨大な岩によって音を立てて塞がれてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ