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「オーバーライト・ワールド 〜価値なきもの、世界を救う〜」  作者: 伝福 翠人


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18/18

価値のないもの

世界が白く染まり、どれほどの時間が経過しただろうか。


ユキが最初に感じたのは、ほこりっぽさではなく、ひんやりとした、澄んだ空気だった。

目を開けると、そこは「始原のダンジョン」ではなかった。

天井には青空が広がり、足元には柔らかい草が生えている。

「世界の心臓」も、おぞましい玉座も消え、ただ穏やかな風が吹き抜ける、美しい高原が広がっていた。


「……終わった、のか?」


傍らには、アリアとカイが、同じように呆然ぼうぜんと空を見上げている。


「ああ……」

ユキは、自らの金色の瞳が、元の黒い瞳に戻っていることを感じた。

そして、あのボス――世界に絶望した男の気配も、ラングレイの魔力も、どこにも感じられなかった。


ユキが【概念創造】で叩きつけた【断絶】の概念は、ボスと世界の接続を完全に切り離した。

神の力を失い、ただの人間に戻ったボスは、自らが溜め込んだ「けがれ」に耐えきれず、ラングレイと共に光の中へ消滅していった。


戦いは、終わったのだ。

だが、世界はまだ救われていない。


ユキの視界の隅には、あの絶望的なカウントダウンが、まだ残っていた。

『世界の寿命は、残り300日』

(※戦闘で日数が経過している)


「ユキ……」

アリアが、不安そうにユキを見つめる。

世界を汚染する「穢れ」の根本原因――人間の負の感情――は、解決していない。

ボスを倒しても、延命措置であるダンジョンの限界が迫っている事実に、変わりはなかった。


「……いや」

ユキは、静かに首を振った。

「カイ。あんたの【概念魔術】の力が必要だ。俺の力を増幅してほしい」

「ユキ?」


「アリア。あんたの【聖剣】の力も。俺の概念が暴走しないよう、制御してほしい」

二人は、ユキの意図を察し、無言で頷いた。


アリアが聖剣を地に突き立て、結界を展開する。

カイが、ユキの背後に立ち、魔力回路を同調させた。


ユキは、再び瞳を金色に輝かせ、【概念創造】の力を起動した。

だが、その力は、何かを「破壊」するためでも「創造」するためでもなかった。

彼は、この世界そのもの――その根幹システム(アラヤ)に、優しく触れた。


彼は、天に向かって、静かに語りかける。

「世界の寿命という概念は、もういらない」


ユキは、システムに深く根付いた『穢れを蓄積し、限界を迎え、死ぬ』という概念を、力ずくで掴み出した。

「お前が『穢れ』と定義する、人間の憎悪や絶望。それも、人間が生きている証だ。それすらも『価値』の一つだ」


彼は、掴み出した古い概念を、新しい概念へと書き換えていく。

カイの魔力がユキの力を増幅し、アリアの聖剣がその膨大な力が世界を壊さないよう、制御していく。


「だから、こう定義する」

「『穢れは、新たなエネルギーとして世界に還元される』と」


ユキがそう宣言した瞬間。

世界中が、柔らかな光に包まれた。

街を覆っていた不気味な赤い空が、澄み切った青色へと変わっていく。

ユキの視界の隅で明滅していた『世界の寿命』のカウントダウンが、チカチカと点滅した後、静かに消え去った。


それと同時に、世界中に存在していた「ダンジョン」が、その役目を終えたかのように、光の粒子となって空へと溶けていく。

世界を延命させる必要がなくなったのだ。


「……終わった……」

ユキは、力を使い果たし、その場に座り込んだ。

カイとアリアが、その両脇を支える。


空を見上げると、そこには、どこまでも続く青空が広がっていた。

もう、世界が何かにおびえる必要はない。


「なあ」

ユキが、二人に笑いかける。

「ガラクタ市、覚えてるか? 俺、あそこで銅貨稼ぎしてたんだぜ」


「ふっ。私は、呪われた装備のせいで、ダンジョンで死にかけていたがな」


「俺は、工房で膝を抱えて、才能が枯れたと絶望していた」


三人が、顔を見合わせて、声を上げて笑った。


かつて、「ゴミスキル」持ちと呼ばれた青年。

「呪われた」とうとまれた女騎士。

「才能が枯れた」と見放された魔術師。


世界から「無価値」の烙印らくいんを押された者たちが、世界を救ったのだ。


「さて、と」

ユキは、草むらから立ち上がった。

「帰ろうか。俺たちの街へ」


世界は救われた。

だが、ラングレイたちが引き起こした混乱は、まだ残っている。

やるべきことは、山積みだ。


「どんなものにも、必ず価値はある」

ユキは、太陽に向かって大きく伸びをした。


「俺たちが、その証明だ」

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