始原の玉座
「まだ、何も終わっていない!」
金色の瞳を輝かせたユキが宣告すると同時、彼の背後に浮かぶ数百の「光の剣」が、一斉にラングレイの部隊へと射出された。
それは、もはや魔術ではなかった。
「剣」という【概念】そのものが、敵の防御魔術や鎧が持つ「守る」という概念を、一方的に切り裂いていく。
「ぎゃあああっ!」
「馬鹿な、防御が……通じない!」
「真の秩序」の精鋭たちが、紙切れのように蹂躙されていく。
「小僧……! 貴様、一体何を!」
ラングレイが、ユキの存在そのものを理解できないという顔で、憎悪に歪む。
彼は「世界の心臓」の掌握を一時中断し、全魔力をユキの排除へと向ける。
だが、ユキはもう止まらない。
彼は、傷つき倒れていた仲間たちに手をかざした。
「アリア! あんたの概念は【敗北】じゃない!【聖剣】だ!」
ユキは、アリアが失った聖剣の「本質」をその場で【創造】し、彼女の手のひらに光の聖剣として握らせた。
「カイ! あんたの概念は【負傷】じゃない!【叡智】だ!」
カイの腕の傷が、瞬く間に塞がっていく。
それだけではない。
彼の魔力回路が、ユキの概念付与によって最適化され、魔術の構築速度が数倍に跳ね上がった。
「これは……!」
「力が、戻る……いや、それ以上だ!」
アリアが光の聖剣を手に立ち上がり、カイが新たな魔術を詠唱破棄で展開する。
ユキが創造した「概念武装」だった。
「行け!」
ユキの号令と共に、パワーアップした二人がラングレイの側近たちを次々と撃破していく。
アリアの剣は、敵の「存在」そのものを断ち切り、カイの魔術は、敵の魔術の「概念」そのものを破壊する。
戦況は、一瞬にして逆転した。
「あり得ん……! 人間が、世界の『定義』を書き換えるなど……! それは『神』の領域だ!」
ラングレイは、自らの理想が、理解不能な「バグ」によって破壊されていく様に、ついに恐怖を覚えた。
彼は、残った全魔力を投入し、三人の足元に巨大な爆発を引き起こした。
「愚かなる者どもよ! ボスが、貴様らごとき旧世界の残骸を、始原のダンジョンにて消し去ってくれるわ!」
爆炎が視界を遮る中、ラングレイは「世界の心臓」のさらに奥――その中枢へと続く、空間の歪みを開き、そこへ逃げ込んでいく。
彼らのボスが待つ、「始原のダンジョン」へと。
「逃がすか!」
爆炎を切り裂き、三人は迷わずその後を追った。
空間の歪みを抜けた先。
そこは、天空図書館とは似ても似つかない、おぞましい空間だった。
無数の太い血管のようなパイプが脈打ち、それが全て、空間の中央に鎮座する巨大な「玉座」へと接続されている。
ここが、敵の本拠地。
そして、全てのダンジョンの元となった「始原のダンジョン」の最深部。
玉座には、一人の男が背を向けて座っていた。
「真の秩序」を束ねる、黒幕。
逃げ込んできたラングレイが、その男の前にひざまずく。
「……ボス。申し訳ありません。イレギュラーが……」
「分かっている。下がれ、ラングレイ」
玉座の男が、ゆっくりと立ち上がり、振り返った。
三人は、その姿に息を呑んだ。
男の体は、半分が人間、半分が「世界の心臓」そのものと融合していた。
無数のパイプから、世界の寿命を喰らい、穢れを吸収し、その全てを自らの力へと変えている。
その瞳には、もはや人間の感情はなく、神のような、冷たい光だけが宿っていた。
「――ようこそ、鑑定士。そして、私の『失敗作』たちよ」




