抜けぬなら 折ってしまえ 聖剣は
トイレで4日目の便秘と戦っていたとき、天啓が下りました。
魔物が蔓延る深い森のさらに奥に、大きな岩に刺さった聖剣がありました。
その地はかつて魔王城があった場所で、命をかけて相討ちになった勇者が遺した聖剣と云われています。
その聖剣を抜いた者が、次の勇者になるという伝説が残っていました。
多くの冒険者や騎士、我こそはと腕に覚えのある者たちがやってきましたが、聖剣は今も岩に刺さったままです。
ある時、その大岩の前に1人の人物がやって来ました。
その者は、自分の身長よりも大きな金槌を持っていました。
そして金槌を振りかぶると叫びました。
「抜けぬなら、折ってしまえ、クソ聖剣!!」
力の限りフルスイングしたら、聖剣は刃の根本からポッキリ折れました。
その者は、取れた柄を持って森を後にしました。
聖剣でもっとも重要だったのは、柄に嵌っている宝玉でした。
かつての勇者が神から与えられた力は、宝玉に宿っていたのです。
刀身はどーでもよかったのです。
その者は柄から宝玉を抜き取ると、その周りにあった宝石や魔石も全て外しました。
黄金でできていた柄は、溶かして金塊に変えました。
それらは各地の質屋や宝石商に、それはそれは高く売れました。
たくさんのお金を手にしたその者は、それを元手に都会の片隅に店を構えました。
《小さな鍛冶屋 み~たんの店》
アラサーのミ〜タンは、10代の頃から鍛冶職人になるのが夢でした。
ですが子供のように背が低く、さらに童顔のミ〜タンを弟子にしてくれる親方は誰もいませんでした。
そればかりか、実年齢を伝えると
「ガハハハハハハッ!
何の冗談だよ!寝言は寝てる時に言うもんだぜ!」
と誰もが相手にしてくれませんでした。
そこでミ〜タンは考えました。
『誰も弟子にしてくれないなら、自分の工房を自分で作っちゃえ!
そのために必要なのは、やっぱりお金でしょ!』
そうしてミ〜タンは、念願の工房を構え、立派な鍛冶職人になりました。
やがて冒険者や騎士の間で、み~たんの店は噂になっていきました。
ミ〜タンが作る武器はどれも聖なる力を宿し、魔物を簡単に一刀両断し、さらに持ち主にバフをかけてくれるという業物だったのです。
多くの者が店に行きましたが、ミ〜タンはなかなか武器を打ってくれませんでした。
というのも、アラフォーになっても背が小さく、幼児体型でお肌はツヤツヤ、小さな体に大きな赤ん坊を背負っているミ〜タンを、店主本人だと誰もが気づかなかったからです。
ミ〜タンを訪ねてきた者たちは、店先に立つ筋骨隆々で2mを超える大男に、ワンパンでノックアウトされました。
ミ〜タンは道端に倒れた者たち言いました。
「アタシはウチの旦那より強くて、デキる奴にしか、武器を作らない主義なの。
鍛え直してから、またおいで!」
ミ〜タンは仁王立で言い放ち、胸元に垂れてきた長い三つ編みを掻き上げました。
それを、背中の赤ん坊がしっかと捕まえて、髪飾りをアブアブとしゃぶっています。
そんな可愛い息子のお尻をポンポンしながら、頬を染めたミ〜タンは大好きな旦那さんの腕にぶら下がりながら、店の中に戻っていきました。
強面の旦那さんも、目尻を下げて愛する妻と我が子を優しく守ります。
白目で気絶している客たちは、それを黙って見送るしかありませんでした。
街の住人たちは、そんな客たちを顔色も変えずに跨いで道を通っていきます。
その光景は、この街では当たり前なので誰も気にしません。
むしろ道の真ん中で倒れてるのは、邪魔で仕方ないと主婦の皆さんは井戸端でおしゃべりするのです。
近所の子供たちは
「デカチョー!またあらなた……あたなら……」
「あらたな、な?」
「アララな被害者を見つけました!」
「よし!捜査開始!!」
と警邏隊ごっこを始めます。
街は今日も、いつもの日常が繰り広げられています。
――世界はまだ知らない。
聖剣は折られ、溶かされ、宝飾が外され、各地に散らばっている事を。
神力が宿った宝玉が、赤ん坊のヨダレまみれになっている事を。
まだ誰も知らない……。
〜完〜
無事、戦いに勝ちました。
ボラ◯ノール、家にあったかな?
余談:どーでもいい裏設定
魔力が込められた宝石→略して「魔石」