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狩人の夢




灰色の暗く淀んだ空の下、殷殷いんいんと工場が稼働している。

その工場街の外れに人の悪意が噴き出したような工房があった。


大小さまざまなノコギリ刃は、「仕掛け武器」の部品。

職人が工夫を凝らした仕掛けの種が棚に収められている。

そして天井まで背が届く巨大な工作機械が構内に並んでいた。


この作業場を見下ろす位置に事務所がある。

そこには、裸のギネスがいた。


「はあ、はあ、はあ……。」


5人の男娼たちに代わる代わる犯されたギネスは、テーブルの上で胸を弾ませている。

長く激しい情交が終わる頃、工房の職人が事務所に上がって来た。


「ギネス様。

 大変、お待たせいたしました。」


屈強な男の職人が恭しく彼女の装備を届ける。

ギネスは、息を乱しながら返事する。


「…コーヒーを…。」


彼女がそう言うと別の男がカップを差し出す。

決して上物と言えない安いコーヒーを啜るギネスに職人は、講釈を垂れ始めた。


「”爪”と”牙”は、今回の狩りに不向きであると存じます。

 そこでわたくしどもと致しましては、こちらの仕掛け武器をご用意しました。」


「ふうん。」


職人がギネスに見せたのは、金属で出来た花束だった。

花弁はなびらに見えるのは、無数のノコギリ刃である。


職人は、獣狩りの銃の方も用意した。


「クイーン・イザベル改造銃です。

 女主人ミレディ、ご確認を。」


海賊が使う燧石式フリントロック拳銃だ。

伝統的に狩人は、このような後装式火器を好むものである。


獣狩りの銃は、通常の銃火器と異なる点が2つある。


1つは、左手用に作られていること。

これは、狩人が右手に仕掛け武器を持つため。


1つは、水銀弾と呼ばれる特別な銃弾を使用する点である。


水銀弾。

正式名称は、水銀アマルガム弾。


水銀、鉛を主とする銃弾で狩人の血液を混ぜることで獣に対する威力を創出する。

長い獣狩りの歴史が生み出した成果の一つ。

獣化という怪現象に対抗できる数少ない有効手段である、


だがギネスは、普段から銃火器を使う事がない。


「いや、やっぱり銃は良いよ。

 そんな物騒なものは、性に合わないからねェ。」


ギネスは、そう言って難色を示した。

しかし職人は、是非にと薦める。


「余計な差し出口とは、分かっているのです。

 しかし今夜は、これをお持ちになり、狩りに望んでくださいますよう…。」


職人が話している間にギネスは、服を着始めた。


真っ赤な口紅を引き、髪を整える。

高いピンヒールのブーツ、膝まであるロングコート、白いズボン。

黒い手袋に婦人帽子を合わせると夜会にでも行くような恰好だ。


「そうかい。

 じゃあ、今回は、この銃を貰っておくよ。」


と答えてギネスも渋々、拳銃を腰に吊り下げた。


「悪夢の秘匿は解かれ、お探しの獣を阻む障害は、取り除かれました。」


ギネスの相手をした男娼のひとりが言った。

花束を試し振りしながらギネスは、男に質問する。


「あの街の病人と獣には、何か関係があったの?」


「あの街の病人たちには、秘密があります。

 彼女たちは、秘密を隠すために獣を利用したようです。」


「…秘密を探るものは、悪夢に誘い込まれるって訳か。」


ギネスは、水銀弾やその他の装備を確認する。

狩人の上着の下は、まるで武器庫である。


「夜明けも近い………。

 …くあ…。」


ギネスは、そう言ってベッドに倒れ込む。




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