紅時3 髪結い
次の投稿は明日の22時頃になります。
若紫は差し出された御膳を一目してから、立ち上がり床の間の天袋を開いた。巾着を取り出し、紅時の膝に乗せる。
「ねえさん。何時も有難うございます。頂きます。」
下座に座っている紅時と末摘花が微笑んだ。
「今日のは何だい……。」
末摘花が覗き込むと、甘味が出て来た。
「最中なら腹持ちが良くて良かったね。あられもあるし早く食べな。皆が来る前にね。」
「ゆうげなら禿でも宴会だから食べれるが、御前は食べ盛りなのに、食えずが多過ぎる。だから、小さい侭なのだ。確かな年齢が解らなくとも、横に伸びないと縦にも伸びはしまい……。」
「此の年で客に気に入られちまうのが、紅時の運の悪さだね。普通は新造になる迄、馴染み何て出来ないものを……。紫が助けてやんなよ。」
「紅は私の側から離れさせないよ。寝所の時は夕顔が助けてくれる筈だ。」
若紫がひらりと身を翻し、御膳に箸を付けた。
紅時は慌てて菓子を食べ、棚から髪結いの道具を出した。しかし、見た事のない包みが出て来た。
若紫は食べ続けた侭、言葉を発した。
「天都の吉原で流行っている髪型の付尾だ。紅時やっとくれ。」
「資料が浮世絵ではありませんか……。湿式写真はありませんか……。鼈甲の簪まであるとなると、吉原の横浜兵庫でしょうか……。末摘花はどう思う……。」
「分かる訳ないわ。天都の事なんかさ。」
若紫が箸を強く置くと、鼻息を荒くした。
「狸が買って来た一流吉原の花魁道中を真似るそうさ。私に重い羽織を着て、真似事をさせたいそうな。京と都を比べて面白がってるだけさね。阿呆らしい……。」
煙管に火を付ける若紫。
末摘花は鬘をまじまじ見た。扇を二つ広げた髷の様になっている。
「諦めて江戸髪結いを呼べばいいじゃないの。京で此の髷を乗せられる技量がある奴がいるか、知らないがね。」
「狸に負けを認めろと云わしゃりますのか……。お末には分かりますまい。」
「ああ、本気で怒ってるのね。ならば、若紫の為だ。紅時。出番だよ。」
紅時は立ち上がり、若紫の頭の後ろに立った。前世で江戸花魁の髪の結い方を数十回見た事がある。
紙結紐を口に加えると結い方を替える為の均し作業に入った。町人が髪を結い上げる文化を作ったのが初め。京では洗い髪の侭の人も多い。まだ、公家文化のある京吉原では、若紫には誉があったのだろう。
「末摘花。此方を引っ張って……。」
「何で分かるのかはどうでもよいわ。若紫の為にやってるんだろ……。なら、京一番の別嬪にしなくちゃ。」
紅時は前髪を上げると器用に紙結紐で髪を結んだ。
「基本は同じみたいだね。で、どうするのさ。」
「耳の横髪を町娘みたいに広げるの……。孔雀みたいに……。」
末摘花が不審な表情をする。紅時が使い慣れない単語を話す時があるからだった。他の者は聞き流しているが、彼女だけは必ず疑問を持った。
「結い終わったら、おかあさんに見せに行きます。良いですね。紫様。私だって今の流行等解りませんからね。」
紅時が叫んだ。
「なら急いどくれ。紅時が出来なければ京の誰も出来まい。狸だってこんな嫌がらせさえしなければ、良いものを……。」
若紫が煙管をカンと叩いた。
「時間がないよ。お末は昼見せに出るのだろ。」
若紫が煙管から箸に持ち替えて、飯を食い出した。末摘花は満足そうに笑った。
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