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8 彼女

 青木君との話を終えた後、森沢君は集まってきていたクラスメイトの方を向いた。


 「せっかくの機会なので、皆んなにも一応報告しておくね。今青木君が、詩織が僕の彼女だと言う事を認めてくれたよ。詩織はこんなにも可愛いから、詩織を彼女にしたいと思っている人も居ると思う。でも、詩織は青木君が認めた僕の彼女なんだ。だから、変なちょっかいはかけないで欲しい。それと僕は頼りない彼氏だから、詩織が困っていたら助けてあげて欲しい。そう青木君にもお願いしてあるんだ。皆んなもそうしてもらえると助かるよ。

 あと、詩織は青木君が認めてくれた僕の彼女なんだけれども、僕と付き合っている訳では無いんだ。だから、詩織が好意を持った他の人とデートとかしても、それが浮気とかにはならないし、僕にそれをとやかく言う権利も無いんだ。

 まあ、そう言う事なんで、よろしくお願いするね。


 それと、早くしないと次の授業が始まっちゃうよ。」


 そう言うと、森沢君は体育館を出て行った。


 「ごめんね、皆んな。でも、私からもお願いね。」


 軽くクラスメイト達に頭を下げた後、詩織は小走りで森沢君の後を追った。体育館には、何にどう反応していいのかすらわからないままのクラスメイト達が残された。


 詩織の嘘から始まった森沢君の『ラノベ主人公』作戦は、まだ継続しているらしい。男の約束によって青木君に詩織を諦めさせ、さらには協力まで取り付けた。また、他の男子生徒への牽制までしているように思われた。


 

 体育館での森沢君の発言は、今まで私達が共有していた『彼女』とか『付き合っている』とかの定義とか概念とか言うものを思いっきり掻き混ぜ、教室に戻ってからもクラスメイト達を困惑させていた。休み時間には、詩織がクラスメイト達になんの説明もしないまま森沢君の前の席に座り、森沢君に話しかけている事も困惑が収まらない原因となっていた。元々私と森沢君は席が隣同士なので、そこに詩織が来る事により、窓際の一角にクラスメイト達の視線が集中していた。

 視線は森沢君と詩織との間を往復し、時々遠慮がちに私のところに立ち寄っていた。でも、誰も話かけてこなかった。私にも、詩織にも、森沢君にも。皆んなが私達との距離を測りかねていたのだと思う。


 『話しかけたら、恵美に怒られるかな?』


 体育館で聞こえてきた言葉を思い出した。


 『ラノベ主人公』になって、突然森沢君は皆んなの前に現れた。

ボッチフィルターを通してしか見た事の無かったクラスメイト達にとって、そこで見た森沢君はとても新鮮だったと思う。私しか知らない森沢君に、皆んなは気付いてしまったのだろうか。

 森沢君は、実はかなりイケてる。イケメンとか運動ができるとか頭が良いとかの、わかりやすい尖った魅力が無いだけで、全体的に好印象だ。無駄に爽やかとか、無駄に優しそうとか、無駄に声がいいとか、友人達と共有できなそうな、説明しづらそうな魅力は沢山ある。意味不明な会話でさえも、私は楽しいと感じていた。

 私だって女子高生だ。バッチリとオシャレを決めて、オシャレなレストランの窓際の席、『君はこの夜景よりも綺麗だよ。』なんて、イケメンに囁かれるシーンなんかに憧れたりするけど、そこに森沢君は登場できない。

 

 「東北の方なんだけどね、ネギで蕎麦食べるところあるんだって。ネットで見たんだけど、訳わかんないよね。」


 「蕎麦食べる時、普通にネギ入れるけど。」


 「入れるんじゃなくて、長いままハシみたいにしてネギで食べるの。」


 「2本で?」


 「ううん、一本。」


 「それじゃ、蕎麦掴めないじゃん。」


 「すくうって感じかな。どんぶりにネギ突っ込んでさぁ。」


 「ごめん、何言ってるのか全然わからない。」


 「そう言ってもらえると嬉しいんだけど、でもね、そう言いたいのは僕も一緒なんだ。」


 こたつに入って、大福食べながらこんな会話をする。想像の中に森沢君を登場させると、こんなイメージになってしまう。なにこれ、これはこれで良いかも。森沢君は、そう思わせる抜群の雰囲気を持っている。


 皆んなは、私しか知らない森沢君にもう気付いているのだろうか。

 皆んなは、私も知らない森沢君にもう気付いているのだろうか。


 クラスメイト達が森沢君を知るようになれば、遅かれ早かれ森沢君はクラスの人気者になっていくと思う。


 その時、彼はどうするのだろうか。その時、私は彼にどう接しているのだろうか。

 

 「恵美、聞いてる?今日の放課後大丈夫だよね?」


 「ごめん、ちょっと考え事してた。あ、でも、今日は何もないから大丈夫だよ。」


 「じゃあ、決まりね。」


 放課後、私は、詩織と森沢君と3人でファミレスにいた。








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