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6 勝負

 『詩織を最高のシュウマイにする。』


 こんなアホな頭のおかしい話を長々とご静聴ありがとうございました。グリンピースに代わりまして、厚く御礼申し上げます。と、言いたくなるほどに、クラスメイトも、青木君も、そして私も黙って彼のよくわからない演説を最後まで聞いていた。これは森沢君の声のなせる技なのか、彼の話す言葉は次から次へと明瞭に頭の中に届き、それ故に、脳は懸命にその難解な情報の解析に追われ、他の行動を起こすための余力を奪われてしまっていた。いわばサイバーテロである。私達はサンドバッグ状態で彼の頭のおかしい攻撃を受け続けていたのだ。

 

 詩織は、演説が終わった後に、


 「ひー!」


 と奇声を発した後、身動きをしなくなった。


 青木君は、騎士道なのか武士道なのかサンドバッグなのか、魔術師の詠唱を聞く勇者のように最後までしっかりと話を聞いた後、一呼吸おいてやっと反応した。


 「勝負?何だそれは。」


 「黒木君は口で言ってもわからないようだから、別の方法で君にわかってもらおうと思うんだ。僕と勝負をして僕が勝ったら、詩織は僕の彼女だと認めて、君には詩織を諦めてもらう。」


 「俺が勝ったらどうするんだ?」


 「僕は詩織と別れて、今後一切君達には口出ししないよ。まぁ、負けたらお互いに詩織を諦めるって事。詩織を賭けた男と男の勝負だよ。勝負の方法は君に任せる。例えば、今度のテストの成績とか、けん玉とか…。」


 「ふんっ。詩織を賭けた男と男の勝負だと?そうか、詩織をかけた男と男の勝負なのか。うむ、ちょうどいい、ここは体育館だ。バスケットなら勝負してやろう。」


 「バスケでいいよ。じゃあ、バスケで勝負だね。」


 あっという間に、恐ろしく軽いノリで『詩織を賭けた男と男の勝負』の話が出来上がった。この勝負、勝っても詩織を手に入れられる訳ではないらしい。『詩織を賭けた』とか言っておきながら、賭けているのは『負けたら諦める』なのである。青木君は元々脈なしだし、森沢君の彼女発言はハッタリ。二人とも勝って現状維持、負けても失う物がない。しかし、森沢君が勝った場合には、青木君が詩織を諦めるという、詩織にだけメリットが発生する謎の勝負になっている。『ラブコメ主人公をやってみたかった』森沢君と、『詩織を賭けた男と男の勝負』という言葉に酔ってしまったのであろう青木君のなかなかにアホな勝負なのである。ピカって白熱電球が光ったらしいアイデアとはこれの事なのだろうか。詩織にメリットが発生する以上森沢君には勝って欲しい。しかし、選抜チームにも選ばれているバスケ部のエースにバスケで勝負する事になるとは、森沢君のアホさ加減には呆れるばかりである。


 緊張感の欠片も感じられない表情の森沢君に声をかけてみた。彼にはデメリットが無いので緊張なんてしてないのだろうが、なぜか私が妙にドキドキしてきている。


 「森沢君、バスケやったことあんの?」


 「僕には友達がいないんだ。だから、誰かとバスケしたことはないよ。一人でドリブルとかシュートとかはした事あるけど。」


 「青木君バスケ部だよ。大丈夫なの?」


 「相手が誰だって大丈夫。今の僕はラノベ主人公だから、僕が勝つハズだよ。応援してね。」


 「うん。応援してる。頑張って。」


 「えっ、あっ、うん、ありがとう、詩織。」


 突然、彼にエールを送る声が割り込んできた。両手を胸の前でぎゅっと固く握り、少し紅潮した顔にキラキラした瞳をした詩織だった。『詩織を賭けた男と男の勝負』に酔ってる人間がここにもいた。

 

 「おう、森沢。始めようぜ。」


 コートに入って行く二人の後ろ姿を見ていた。





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