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4 宣言

 体育館の隅っこで、青木君が森沢君に話しかけていた。見慣れない風景だった。二人に近づいて詩織が聞いた。


 「ねぇ、何話してたの?」


 「一人で寂しそうにしてたから、バスケット教えてやるよって誘ってたんだ、なあ、森沢。」


 ストレートに聞いた詩織の質問に、青木君は誤魔化した返答をしたと思う。この男、そんな気遣いのできる人間ではないから。


 「そう、それならいいけど。それでね青木君、昨日私が言ったのは嘘なの。ごめんなさい。森沢君は関係ないの。だから、変に絡まないでね。それとね森沢君、恵美から話は聞いてると思うんだけど、本当にごめんなさい。」


 詩織は、森沢君に頭を下げた。


 「あ、君が僕の彼女さんか。今朝、屋上で話は聞いてたから、僕は全然大丈夫。気にしないでいいよ。それで、今、黒木君に『お前、高宮と付き合ってるのか?』って聞かれたんだけど、君が高宮さんでいいんだよね。それで、こっちが青木君?」


 「えっ?あの、えっとね、   うん。」


 しどろもどろになりながら、詩織は小さく頷いた。


 いたるところに間違いが転がっていたが、特に指摘しようとは思わなかった。だって、面倒くさくなりそうだから。しかし、黒木君て誰だよ。詩織の名前さえ知らないくらいに、森沢君はクラスメイトに興味がない。名前の知っている人っているのだろうか。たぶん私の名前だって知らないと思う。呼ばれたことないし、ちょっと悲しい。


 森沢君は、話を続ける。


 「それで、効果はあったの?僕を彼氏にした効果。」


 「森沢君に迷惑をかけただけかな。」


 「はあー。」


 森沢君は大きく溜息をついた後、再び詩織に話し始めた。


 「ごめんね。本当にごめんね。本当に僕って役立たずだよね。こんなに可愛い子に期待されていたのに、それに応えられないなんて本当に情けないよ。この前も、女の子に寒いねって言われちゃて、自覚はしてたけどショックだったんだ。だから、頑張らなくちゃって思ってて、今ピカって光ったの。電球が。あっ、でも、今はLEDか。違うな。僕が光ったのは白熱電球だったと思うけど…。」


 「ごめん、何言ってるのか全然わからない。」


 思わず言ってしまった。だって、本当に意味がわからなかったから。何事かと周りに集まって来たクラスメイトも、詩織も、青木君も、無口なはずの森沢君の際限無く話す姿に、目が点になっている。

 いつも思うのだか、何度聞いても森沢君の声は良い。上手く表現出来ないけど、木琴のポンポンと響いてくるような耳に心地良い声なのだ。さらに、優しい口調とか、話す速さとか、彼の話はとても聞きやすい。だから意味不明な事をずっと聞いてしまう。それがまた結構楽しかったりするので、何度も話しかけてその度に意味不明を聞かされてきた。ある意味、需要と供給が成り立っており、彼は私に対して意味不明を垂れ流し続けている。彼は誰にも話しかけないし、私にすら彼からは話しかけてこない。話しかければ際限なく話し出すのだが、私以外誰も森沢君に話しかけないから、この事は今まで認知されないでいた。


 「あっ、ありがとう。その言葉を聞くと、身体がゾクゾクってするよ。」


 なぜか私にお礼を言った後、再び詩織に話しかける。


 「じゃなくて、ごめんね。えっと、要するに、僕も頑張ってみようと思ったって事なんだ。さっきピカって光った時に、これなら僕でも役に立てるかなって思ったの。せっかく高校生なんだから、ラノベ主人公みたいな事やって笑われても良いかなって。ラブコメの主人公なんて、現実にはちょっと無理そうなんで、今がチャンスじゃないかって思ってるんだ。だから全力で頑張るけど、ダメでもがっかりしないで、ね。こういうの初めてなので、どうしたらいいのか良く分からないんだ。あっ、それと、下の名前教えてくれるかな?」

 

 全然『要するに』じゃなかったけれと、森沢君は最後に詩織に名前を聞いた。屋上で名前教えてあげたでしょ、覚えておきなよ。


 「詩織、高宮詩織。」

 

 少し小さな声で詩織は答えた。


 「詩織、そういえば、詩織だったね。ごめんね。じゃあ、頑張ってみるよ。」


 と、青木君の正面に身体ごと向き直り、大きく胸を張って高らかに宣言した。


 「僕は詩織と付き合っている。詩織は僕の彼女なんだ。だから、変なちょっかいはかけないで欲しい。」





 

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