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13 一人

 「ある日僕はクラスの皆んなに笑われたんだ。先生も笑ってた。僕は、なぜ笑われたのかわからなかったんだけど、誰も何も言ってくれなくて、ただ笑ってるだけ。もう本当に嫌になって、いろいろ考えるのも嫌になって、早く帰ってバスケしたいなぁって考えてたら突然思ってしまったんだよ、『もう、いいや』って。家帰ればバスケできるから、学校なんて『もう、いいや』って。心がスッと軽くなった気がしたよ。

 それからは次から次へと『いいや』が増えていった。笑われたっていいや、友達なんていいや、なんて感じで。今まで頑張ってきたものを、どんどん諦めていったんだ。そしたらね、誰にも相手にされなくなって、あれだけ人の多い学校で一人になれたんだよ。一人は慣れてたから全然嫌じゃなかった。かえって居心地が良くなった。学校がそんなに嫌じゃなくなったんだ。」


 「一人って意外といいんだよ。時間を自分の為だけに使えるし、クラスメイトに気を遣わなくていいし、名前すら覚えなくて良いんだよ。呼ぶ事なんてないからね。父親は入退院を繰り返してたし、母親は不規則な仕事だから、スマホは早くから持たされてたので、中学生の頃にはもうわからないなんて思うような事もなかったけど、でも、自分から話してみようと思うような人もいなかったし、誰かに話しかけた事もなかったからね。」


 「それからは、ずっと一人だよ。」



 島でたった一人の子供として森沢君は育った。大人しかいない島で、島の人全員の子供として森沢君は、気にかけられ、可愛がられたのだと思う。


 「坊主、何やってんだ?」


 「寒くないか?」


 「お腹すいてない?」


 森沢君から何の行動も起こさなくても、周りの大人達が話しかけてきてくれた。遊びは一人、話すのは島の大人だけ。小さな島だけが森沢君の世界の全て、島の外の事など考えもしなかったろうと思う。

 しかし、彼は突然にたった一人で異世界に放り込まれた。生活習慣の違い、接した事のない子供だけの社会、そこに存在する曖昧で厳格なルール、未知の文化、それらに適応する為の知識も経験も森沢君には無かった。小学4年生の森沢君には、厳しすぎた。そして、森沢君は逃げた。

 逃げる事が悪い事だとは思わない。皆んなが皆んな頑張り続けられる訳ではない。皆んなが皆んな戦える訳ではない。逃げた方がいい場合も、逃げなければならない場合もあると思う。小学4年生の森沢君はやむを得ず逃げた、そして、高校2年の今もまだ逃げ続けている。

 

 『僕だって、話しかけようと思ったんだよ。』


 ハッキリと彼はそう言った。少なくとも私とは話をしたいと思ってくれているのだろう。もう逃げるのを終わりにしたいのかもしれない。

 席替えで隣になって、森沢君とはたくさんの話をしてきた。所々に意味不明を織り交ぜた彼の話は、聞いていて面白かった。意味不明を持ち帰り、授業中でもベッドの上でも暇な時に引っ張り出してゆっくりと考えてみる。『あっ、そういう事かぁ。』とか、『あいつ、やっぱり頭おかしいよ。』とか、『あの人、こんな風に考えるんだ。』とか、答えが見つかる時もあるが、意味不明のままの時もあった。そして、また新しいネタを仕入れるために森沢君に話しかける。少しづつ新しい森沢君が増えていく。でも全然足りない。もっと森沢君を知りたいと思ってしまっている。

 森沢君が逃げるのをやめた時、他の人と交流を持った森沢君はどう変わっていくのだろうか。彼の隣で、彼と同じものを見て、同じ音を聞いて、同じ物に触れて、彼が、何を感じ、何を考え、何を思ったのかを聞いてみたい。変わっていく姿を見ていきたい。その時、彼の隣に私がいるのかどうかはわからない。でも、逃げる事をやめたいのならば、私がそのきっかけになれればいいと思う。せめて、その手助けをしたいと思う。


 「ねぇ、森沢君。全然違う環境で凄く大変だったんだろうなとは思うよ。でもさ、結局、ただ逃げただけじゃん。『笑われてもいいや。』って思ったんなら、もっと頑張れたんじゃない?」


 隣で詩織が、目を大きく見開いて私を見ている。私はじっと森沢君を見ていた。



 


 

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