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11 島

 「九州の南の方の小さい島。僕は生まれてすぐその島へ両親と渡ったらしいんだ。それで…。」


 森沢君は生まれてすぐにご両親と島に移り住んだそうだ。その島には子供が森沢君しかいなかった。


 「前はいたらしいんだけど、中学を卒業すると島を出て行くの。島には高校がないからね。そして、帰ってこない。」

 

 物心ついた頃には、誰も子供がいなかった。島でただ一人の子供である森沢君は、島のみんなに可愛がられて育った。島の人皆んなに声をかけられて、皆んなと顔見知りだった。でも、遊び相手がいなかった。


 「小さな砂浜で貝を拾ったり、虫を捕まえたり、狭いところで目についたものが遊び相手だよ。TVはあったけど、ほとんど見た記憶がないね。ずっと外にいて、暗くなったら家に帰って眠る。明日何しようなんて考えた事もなかったよ。」


 そして、森沢君も小学生になった。当然学校で生徒は森沢君ただ一人、先生も一人、男の先生だったそうだ。今まで外で一人で過ごしていた時間を、学校で先生と二人で過ごすこととなった。


 「親と一緒にいる時間よりも長かったと思うよ。学校ではずっと一緒だし、学校がなくてもその辺にいるんだ。一緒に釣りしたりして、休みも一緒にいる事も多かったし。でもね、島を離れて新しい学校に行っても勉強で困る事は無かったから、ちゃんと教えてくれてたんだね。感謝してるよ。」


 「入学式とか、運動会とか、島の人が大勢来るんだ。もう島の一大イベントなんだよ。特に運動会がすごくて、皆んなお弁当持って集まってきて、狭い校庭が人だらけになるの。コースの両側にずらっと並んで、その真ん中を僕が手を振りながら走って、聖火ランナーみたいだったよ。その後皆んなでラジオ体操とかして、それからは大人達の運動会になるの。綱引きとか荷物運びみたいなのやって、僕は見てるだけ。でも楽しかったよ。」


 ずっと同じ毎日を繰り返していた。やっぱり島の狭いところで生活して、環境も変わらない、先生も、島の人も変わらない、新しい人もこない。何も変わらない毎日を過ごしているだけだったそうだ。


 「島の人にお土産でもらったけん玉が、僕のたった一つのおもちゃだったんだ。雨の日はずっとけん玉してて、今度見てもらいたいな、きっと驚くと思うよ。」


 そして、お父さんが病気になった。手術と入院と通院とが必要になったが、島にはそんな施設がないので、森沢君一家は島を離れることとなった。森沢君が4年生の時だった。


 「島から離れる時は、岸壁まで島の人が大勢見送りに来てくれたんだ。『さようなら』『さようなら』って、皆んな大声で何度も手を振ってくれるんだよ、本当に見えなくなるまで。僕も離れて行く船の上から泣きながら手を振り返したんだ。『ごめんなさい』『ごめんなさい』って。島を離れる事が凄く悪い事のように思えたんだ。見えなくなるまでずっと謝っていたよ。

 津波とかで故郷を離れて避難していく人っているでしょ。危ないから、住めなくなったから別の場所に移住する。それは決して悪い事ではなくて、やむを得ない選択なんだよ。でもやっぱりあの人達にとっては『ごめんなさい』なんだろうなって、TVなんかでそういうニュースなんかを見ると、今でも島を離れた時のことを思い出すよ。島の人たちはそうやって何人もの人を見送って、その人達はもう帰ってこない。だから、僕は今でも『ごめんなさい』なんだ。」


 「これで島の話は終わりだよ。」


 「森沢君、大変だったんだね。友達作りたくても作れないし。なんか全然現実感がなくて、今ここで直接聞いたのになんか作り話みたいな感じだよ。」


 詩織が感想を言ってくれた。詩織も私も二人とも黙って森沢君の話に聞き入っていて、私も本当に現実感が無かった。なんて言ったらいいのか言葉が見つからなかった。


 「全然大変なんかじゃなかったよ。島の生活に不満なんて考えた事もなかったよ。まだ小さかったし、島の外の事なんて全く知らなかったから、あの狭いところが僕の世界の全てだったからね。でもね、今になって思うと、遊んでるようで勉強してたり、勉強してるようで遊んでたり、先生だって、友達のようで、父親のようで、島の人だって家族みたいで、おじいちゃん、おばあちゃんみたいで、なんかね、いろいろなものの境界が曖昧なんだよね。そうやって、足りないものを補い合ってたのかな、とは思うんだ。だから、本当に大変なんて思った事無かったよ。大変だったのは、むしろこっちに来てからだよ。」


 

 



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