1 嘘
先に謝っておきます。ごめんなさい。
言い訳させてください。文章書くのなんて多分中学校以来なので。
頭がおかしくなっていたのだと思います。でも、せっかく書いたので。
体育館の隅で、一人でバスケットボールでドリブルをしている森沢君を見ていた。彼はいつも一人だ。教室でも、HRの時間を体育館で遊ぼうとなって、皆んなでワイワイバスケットボールをしている今も一人だった。そこへ、青木君が近づいていくのが見えた。今まで二人が話している姿なんて、見た記憶がない。昨夜の詩織からの電話の事が脳裏に浮かんだ。
「ねえ、詩織、あれ見て。ほら青木君。」
隣で友人達とおしゃべりを楽しんでいた詩織のジャージを引っ張りながら、彼らを小さく指差した。詩織は、私の指さす方を確認すると、
「たぶん昨日の事だよね。恵美、どうしたらいいかな。」
「ちゃんと説明して、謝るしかないよ。森沢君には、私から軽く説明しておいたけど、詩織からもきちんと謝ってね。」
「うん、そうする。お願い、恵美。ついてきて。」
小走りで二人の方に向かう詩織の後を、私は歩いてついて行った。
昨夜、詩織から電話があった。
「森沢君に、悪い事しちゃったかも。」
放課後に、また青木君に告白された。ハッキリと断ったけど、諦めてくれなかった。しつこく何度も言い寄られて、その時たまたま通りかかった森沢君を見て、もう森沢君と付き合っているからと、嘘をついて逃げたそうだ。
「誰かと付き合っているって言えば、諦めてくれると思ったの。勝手に森沢君の名前出して、迷惑かからないといいけど。」
「森沢君、恵美とよく話ししてるから、もしかしたら、青木君も信じるかもって思ってしまったの。馬鹿だったわ。」
詩織。高宮詩織は美少女である。女の私から見ても可愛いと思う。テストの成績は上々だが、少しポンコツ。そんな彼女がニコニコしながら話しかけてくる。だからモテる。もはや、学校のアイドル。告白される事など日常茶飯事であり、全て断っている。誰とも付き合ったことがない。
「好きでもない人に告白されても、迷惑なだけ。」
などと、小学校からの友達の私は、よく愚痴を聞かされる。
そんな詩織が、ぼっちの森沢君と付き合っている。なんて噂が流れたら、それを信じた者達に、森沢君の平穏な学校生活が脅かされる恐れがある。そして、相手が相手なのだ。
青木君は、今までに何度も詩織に交際を迫っていた。その度に詩織は丁寧にキッパリと断っていたのだが、それでも青木君は諦めてくれなかった。最近では、大声を出すなど威圧的な言動で交際を強要してくる様になり、詩織は怖がっていた。
「もう、青木君のこと先生に相談しようよ。これ以上エスカレートして来たらヤバイから。」
「そうだよね。今日も怖かったし。森沢君は大丈夫かなあ。」
「青木君のことだから、明日森沢君に絡みに行くと思うよ。でも森沢君だし大丈夫でしょ。それと、詩織、明日森沢君に謝りなよ。一緒に謝ってあげるから。」
「ありがとう恵美。森沢君が話すの恵美しかいないから、頼りにしてるよ。」
「じゃあ、明日ね。」
電話を切って、少し考えてみた。
詩織と森沢君の組み合わせ。他の人からみれば、ただの冗談と受け取って噂にすらならない可能性はある。しかし、詩織に告白したのが青木君。その青木君が面倒なのだ。
バスケ部で、選抜チームにも選ばれているくらいバスケが上手いらしい。大きな体と大きな声を存分に使った威圧的な言動で、我が2年3組男子のリーダーを気取っている。他人の話を聞かない、他人の気持ちを顧みない、自己中なオレ様で、私も詩織もすごく苦手。
あんなのに執拗に迫られたら、本当に怖いと思う。
詩織も緊急避難的に嘘をついたのだろうけど、森沢君じゃ効果を期待できないと思う。明日の森沢君は絡まれ損だな。
森沢君に同情してしまった。