666話 殺気
「はぁ? 俺がお前に殺意を向けただと? バカを言うな。俺はいつでも友好的に振る舞っているではないか」
俺は呆れたように言った。
まったくもって身に覚えのない話である。
「そ、そうですよね。私の勘違いでしたか……。申し訳ありません……」
アスター騎士爵はそう言うと、再び俺に背を向けてメイド少女に向き直った。
俺はそんな彼を横目で見つつ、彼の言葉の意味を考える。
アスター騎士爵は、俺が彼に対して危害を加えると思ったらしい。
しかし、俺はそんなことはしない。
むしろ、彼を指導してやった側だ。
男女のテクニックについて彼が成長すれば、彼の夫婦仲が改善する。
そうなれば、彼は俺に対して恩義を感じるはず。
俺の忠実な手下のような存在となってくれるかもしれない。
そんな未来を期待しているのだ。
「ふふ……。では仕切り直しまして……」
アスター騎士爵の手がメイド少女に伸びる。
それを見た俺は――
(ううむ……。自分が手を出した少女が、他の男に手を出される……。改めて見ると、あまり気分が良くないな。擬似的な寝取られというか……)
そんなことを考えてしまう。
俺は半ば無自覚にアスター騎士爵へ殺気を向けてしまい――
「はぅあっ!?」
バタリ。
アスター騎士爵が、白目を剥いて気絶してしまったのだった。




