659話 レクチャー
俺はアスター騎士爵と話をしている。
彼の領地はなかなかに厄介な場所のようだ。
俺が自分の領地を開発する前に、少しばかり手伝ってやってもいいかもしれない。
「それで? アスター卿の領地はどこなんだ? 王都から近いのか?」
「はい。ここから馬車で数日といった距離ですね。直線距離では近いのですが、山地がある関係でどうしても迂回する必要があります」
「ふむ」
俺は地図を見る。
アスター騎士爵の言う通り、王都から彼が管轄する領地までは真っ直ぐに向かうことはできないようだ。
エルカから王都まで向かうルートと同じように、山岳地帯を避けて進む必要がある。
「まぁいいか。どのようにして行くかは、後でゆっくり考えることにしよう。それよりも、今日の用事だ」
「はい。私からエウロス卿へのマナー指導ですね。屋敷にはもう到着しておりますので、そろそろ馬車から降りましょうか」
「分かった。よろしく頼む」
俺はそう言って立ち上がった。
アスター騎士爵が先に馬車を降りようとするが――
「あ、ちょっと待ってくれ」
「はい? どうかなさいましたか?」
「せっかくだ。先ほど指導していた、腰使いのレクチャーを最後までしておこう」
俺はそう言う。
アスター騎士爵は、少なくとも悪人ではなさそうだ。
平民から騎士爵になったという点で、戦闘能力もそれなりにあるだろう。
また、末端貴族とはいえ貴族歴は俺よりも長い。
過剰に頼りすぎるのは良くないが、適度な範囲で便利に活用していきたい相手である。
ならば、先手を打って恩を売るのも悪くない。




