643話 言葉遣い
「え、エウロス卿……、私のような者に畏まった言葉遣いなど不要ですぞ……?」
そんなことを言ってきたからだ。
確かに、貴族としての序列を考えればその通りか。
俺は男爵で、彼は騎士爵だからだ。
アスター騎士爵からすれば違和感があるのかもしれない。
とはいえ、貴族歴は彼の方が長いだろうし、あまり無碍にするわけにもいかないだろう。
「いや、そういうわけにはいかないさ。貴方は立派な貴族のようだからね」
俺がそう言うと、アスター騎士爵は少し驚いたような表情を浮かべたあとに言った。
「――ふむ。なるほど、噂通りの人物のようですね……」
「ん? どういう意味でしょうか?」
「いえ、何でもありませんよ。――とにかく、言葉遣いは通常のもので結構で御座います」
「……そうか? それじゃあ遠慮なく」
正直助かるな。
慣れない敬語を使うのはなかなか疲れるのだ。
それにしても――
(噂通りの人物ってどういうことだ?)
よく分からないことを言われたので少し気になったが、今は置いておくとしよう。
それよりも、本題に入らないといけないからな。
俺は改めて口を開いた。
「それで、今日はどんな用事なんだ? わざわざ迎えにまで来てくれるとは随分と大袈裟じゃないか?」
「ああ、そうでしたね! お時間を取らせてしまって申し訳ありません」
俺の言葉にハッとした様子のアスター騎士爵が言う。
「実はですね、エウロス卿を王城へ招くことが決定されたようなのです」




