635話 自爆技
俺はタニアと夕食を楽しんでいる。
彼女は2枚目のSSSSSランクのステーキを食べており、最高級の酒もたくさん飲んでいる。
いい感じに上機嫌だ。
そこで俺は、商売の話を切り出した。
「君さえよければ、ぜひ俺に商売について教えてほしいのだが……」
「分かりました。では、後日私の夫を紹介いたしますので――」
「違う違う。俺はあくまで、タニアちゃんに教わりたいんだよ」
「え……?」
キョトンとした顔でこちらを見つめてくるタニア。
そんな彼女に、俺は言う。
「商会の跡取り息子ともなれば、しがらみも多いだろう。商売のイロハを安易には教えられないはずだ。俺は君に教わりたい。どうかお願いできないだろうか?」
そう言って頭を下げる。
彼女は戸惑っている様子だ。
「えっと……。しかし……」
「この近くに、宿を取ってあるんだ。できれば二人きりになれる場所で話をしたいんだが……」
「わ、私には夫がいます。夫以外の男性と二人きりになるわけにはいきません」
「大丈夫だ、問題ない。商売についていろいろと教えを乞うだけだ。別にやましいことをするわけじゃないさ」
「は、はぁ……。いや、でも……」
なおも煮え切らない様子のタニア。
仕方がない、ここは少し強引に行くか。
俺は椅子から立ち上がると、タニアの傍に歩み寄る。
そして耳元で囁いた。
「大丈夫だって言っているだろ? それとも君は、今回の食事代を自腹で支払えるのか? SSSSSランクのステーキが2枚に、高級酒……。君の収入じゃ払えない額だと思うが?」
「うっ……!」
痛いところを突かれたという表情を浮かべるタニア。
実際、彼女の収入からすれば厳しい金額だろう。
事前に俺が奢るとは言っていたものの、所詮は口約束。
俺が自分の分だけの支払いを強硬に主張すれば、形式上はタニアの無銭飲食となる可能性がある。
まぁ、その場合は俺の名誉も大きく下がるので、自爆技のようなものだが……。




