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632話 肉失踪事件?

「そ、それが……。このSSSSSランクのステーキなんですが……」


「ステーキがどうかしたか?」


「いつの間にか全部なくなっていて……」


「む……?」


 俺は彼女の皿に視線を向けた。

 そこには何も乗っていなかった。

 いや、正確に言えばステーキのソースや付け合わせなどは残っているのだが……。

 メインとなる肉がないのだ。


 肉失踪事件?

 いや、これは――


「おいおい、タニアちゃん。何を言っているんだよ?」


 俺はあえて軽い口調で言う。

 そして、彼女にこう告げた。


「さっき自分で食べてたじゃないか」


 そう、彼女は全ての肉を食い尽くしたのだ。

 誰もステーキを横取りなんてしていない。

 つまり彼女の言い分は全くの的外れということになる。


「……え?」


 呆然とした表情を浮かべるタニア。

 そんな彼女に俺は続けて言う。


「だから、君が自分で食べたんじゃないか」


「……え?」


 状況が飲み込めていない様子のタニア。

 無理もないか。

 おそらく彼女は混乱しているのだろう。

 SSSSSランクのステーキの、あまりの美味しさによって。


(俺もこのステーキの旨さには感動したが……。さすがに我を失うほどではないな。Sランクぐらいのステーキは、『悠久の風』のみんなと食べたことがあるし)


 だからこそ、冷静に判断することができたわけだ。

 おそらく、タニアはこれほど上等な肉を食べたことがなかったのだと思われる。

 まぁ一般人の感覚で言えば、Bランクぐらいの肉でも高級だしな。

 多少稼いでいる者でも、せいぜいAランクの肉までだろう。

 Sランクを食べる機会などないし、ましてやSSSSSランクともなると一生に一度食べられるかどうかといったところだ。


(ふむ、せっかくだしもう少し押してみるか……)


 俺はそう考え、タニアに提案をすることにしたのだった。

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