609話 気持ちが大事
かつてのライバルと旧交を温めているセリア。
だが、相手のタニアはマウントを取りたいのか、セリアの恋人をけなし続けている。
まぁ、何股もされているのは事実なのだが……。
そしてようやく、セリアの恋人というのがコウタであると明かされた。
「せ、セリアちゃん、本当なの……?」
信じられないといった表情で問いかけるタニア。
それに対して、セリアは少し困ったように微笑んだ。
「えっと、一応そういうことになっていますにゃ」
「そんな、信じられないわ……。コウタ・エウロスと言えば、Aランクパーティ『悠久の風』のリーダーで、個人ランクもAで、少し前には男爵位に叙爵されたばかりよね?」
「その通りですにゃ! 私の自慢の恋人にゃ!!」
セリアが胸を張る。
タニアから一方的に仕掛けられていたマウント勝負だが、ここに来て一気に情勢が逆転したようだった。
大商人の跡取り息子と、男爵家の当主では格が違う。
しかも、男爵家の当主でありながらAランク冒険者という高みに達しているのだ。
そんな男と付き合っているという事実が、セリアを大きく見せていた。
「ふ、ふん! でも、所詮は結婚もしていない愛人止まりでしょう? しかも序列は9番目! 私は第1夫人なんだから、私の方が上だわ!」
負け惜しみのようなセリフを吐くタニア。
しかし実際のところ、この指摘には妥当性もある。
一般的に見て、『大商人の跡取り息子の第1夫人』と『男爵家当主の序列9位の愛人』を比較すれば、前者に分があると判断する者は多いだろう。
もちろん、その他諸々の事情により逆転はあり得るが。
「いえいえ、そういう問題ではないですにゃ」
「え?」
「確かに序列だけ見ればそうですけれど……。順位なんてどうだっていいんですにゃ。大事なのは気持ちですにゃ」
「気持ち……?」
「そうですにゃ。毎日のように愛情たっぷりに構ってもらえてますし、夜はたっぷりと可愛がられてますにゃ。毎日とても幸せですにゃ」
「うっ……」
うっとりと語るセリアを見て、思わず言葉を詰まらせるタニア。
まるで自分が負けたかのような気分になってしまう。
(くっ……! 私よりも格下のくせに……!)
内心で歯噛みするも、すぐに気を持ち直す。
(いいえ、まだよ……!)
彼女は決して諦めなかった。
ここで引いてしまえば、今夜から気持ちよく眠ることができなくなるからだ。
タニアのマウント合戦に対する執念は、並々ならぬものがあった。
(こうなったら、徹底的に叩き潰してあげるわ……!)
彼女はそう決意すると、再び口を開いた。




