608話 私の恋人は
性格の悪いタニアは、優越感を覚える適切なラインというものを理解していた。
セリアが落ちぶれるのは結構だが、落ちぶれすぎてしまうと優越感の味が薄くなってしまう。
セリアが9股されているのを放置すれば、いずれは捨てられるだろう。
冒険者ギルド受付嬢を辞めて冒険者になっているあたり、金銭面にも余裕はないはず。
例えばだが、大ケガをしたタイミングで恋人に捨てられれば――どうなるかは明白だ。
受付嬢としても冒険者としても技能が中途半端な上、ケガにより働けない行き遅れの借金持ちアラサー女の完成である。
(ふふふっ。もしそうなって、セリアちゃんが田舎にでも引っ込んじゃったら……私が見て楽しむことができないじゃない!)
タニアはそんな未来を否定する。
セリアは美人だし、スタイルも良い。
さらにはギルド受付嬢としての能力も高かったので、タニアにとって目の上のたんこぶだったのだ。
そんな彼女が適度に落ちぶれている隣で、自分は幸せな結婚生活を送る。
そうなれば、どれほど気持ちが晴れるか想像もできないほどだ。
(うふふふっ……!)
心の中でほくそ笑むタニア。
そんな彼女に対し、セリアはおずおずと話しかけた。
「あのぉ……私は、今の恋人たちを大切にしたいんですにゃ……」
「はぁ?」
「だから、申し訳ないのですが、お断りしますにゃ……」
「……どうしてよ? 9股するクズ男なんでしょ?」
「ええっと……。9股というか、私の序列が9位というだけで……。実際には、連れ回しているだけで14人ほどいますにゃ。行きずりの相手を含めれば、もう少し多いかもしれませんけどにゃ……」
「なっ……!?」
それを聞いて絶句するタニア。
まさかそれほどまでとは思いもしなかったようだ。
ちなみに、序列9位は前述の通りセリアだ。
以下、ミルキー、ルン、ネリス、チセ、ヒナタが続く。
「とんでもないカスね……!」
「いえ、それでも十分に愛してもらっていますにゃ」
「いやいや! それ絶対騙されてるわよ!? どうせ、体目当てとかでしょ!」
「そんなことないですにゃ」
「やけに庇うわね? それほど良い男ってわけ?」
「……あれ? 言ってなかっですかにゃ? 私の恋人は、コウタさんですにゃ」
「え……?」
その瞬間、時間が止まったかのように硬直するタニア。
「コウタ? コウタってあの……『悠久の風』のリーダーで、男爵位を授かっている……」
「はいですにゃ」
「……ええぇぇぇーーっ!!??」
タニアの絶叫が響き渡ったのだった。




