604話 タニアのマウント
(うーん……。私は『受付嬢』『槍士』『水魔法使い』系列のジョブを育てているから……『商人』は他の人に任せるべきかにゃ?)
そんなことを考えてしまう。
まぁ、このあたりはリーダーであるコウタや他の面々とも相談して決めることだ。
もちろん、最初から商人として活躍している女性をスカウトできれば言う事なしだ。
「セリアちゃん? 考え事?」
「あ、いえ……」
セリアは慌てて首を振る。
少し思考が逸れてしまっていたようだ。
「まぁ、呆けてしまうのも仕方のないことよね」
「え?」
「だって、かつてセリアちゃんのライバルとしてしのぎを削った私が、大商人の息子と結婚しているのよ? それに対して、セリアちゃんは結婚していなくて、大切な人はいるけれどその人には恋人がたくさんいるなんて……」
「あはは……」
乾いた笑いが漏れる。
確かに、言われてみればその通りかもしれないと思う。
自分としては幸せを感じているが、客観的に見れば『悪い男に弄ばれている』と言われても仕方がないのかもしれない。
もっとも、今さら『悠久の風』を脱退したり、コウタの元を離れたりつもりはないのだが――。
「ねぇ、セリアちゃん」
「なんですかにゃ?」
「そんな男、捨てちゃいなさいよ。もっといい男を私が紹介してあげる」
「……はいぃ!?」
突然の申し出に、思わず大きな声が出てしまった。
周囲から視線が集まるのを感じたので、慌ててペコリと頭を下げる。
そして、小声で尋ねた。
「ど、どういうつもりですにゃ……?」
「あら、言葉通りの意味よ。浮気性のつまらない男じゃなくて、甲斐性のある良い男を紹介してあげるわ。さすがに大商人の息子は無理かもしれないけれど……。ほどほどの商人ぐらいでも、今のセリアちゃんの結婚相手としては悪くないでしょ?」
タニアはそう言ってニヤリと笑う。
その表情を見て、彼女が本気であることを理解した。
(こ、怖いですにゃぁ……)
正直言ってドン引きである。
まさかこんな提案を受けるとは思っていなかった。
いや、そもそもの話として、なぜ自分に結婚相手を斡旋しようとするのだろうか?
(もしかして……見下されているのですにゃ?)
セリアはそう思い当たる。
かつては受付嬢のキャリア採用組としてしのぎを削ったライバル同士。
タニアは王都ギルドに栄転した上、大商人の息子と結婚した。
一方のセリアは、受付嬢を退職して危険な冒険者になった上、浮気性の恋人に弄ばれている。
客観的に見れば、どちらが勝ち組でどちらが負け組なのかは明らかだった。




