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13話 シルヴィと食事/金兎族の少女リン

 白狼族の奴隷シルヴィを購入し、主従契約を結んだ。

 ルモンドの奴隷商館を後にし、町を進んでいく。


「ご主人様。どこへ向かわれているのですか?」


「まずは、食事でもとろうかと思っている」


 今日は、朝から奴隷商館を訪れていた。

 ルモンドへの相談、売買手続き、主従契約などを進め、今は昼時である。

 小腹が空いてきた。


「そうですか……」


 シルヴィがそう言う。

 あまり嬉しそうじゃないな?


「シルヴィは何か食べたいものがあるか?」


「えっ? い、いえ。わたしは余り物をいただければ十分ですので……」


 ああ、そういうことか。

 自分は奴隷だから、おいしい食事を食べるに値しないと思っているわけだ。


「そう言うな。冒険者として活躍してもらうためにも、食事はいいものをとる必要がある。そうだろう?」


「は、はい。では、あの……。肉料理をいただけると嬉しいです。商館では、あまりお肉が出なかったので……」


 シルヴィがおずおずとそう言う。

 奴隷は高級品なので、奴隷商館でも無闇に虐待したりはしない。

 食生活が乱れると奴隷としての品質も落ちる。

 ある程度の食事は提供されていたはずだ。


 しかし、わざわざ高くておいしいものを食べさせることもないといったところだろう。

 別に、タンパク質は肉類以外からでも摂れるわけだしな。


「肉か。それならばいい店を知っている。付いてこい」


 この1週間で、この町の飲食店はいくつか巡ってみた。

 まだ網羅はできていないが、俺にとっての当たり外れは把握しつつある。


「承知しました! 楽しみです。わくわく」


 シルヴィが嬉しそうにそう言って、俺に付いてくる。

 こうして喜んでもらえると、こちらも嬉しい気持ちになる。


 俺たちは歩みを進めていく。

 そして、目的の場所に着いた。


「ここだ。料亭ハーゼ。いい肉料理を出す店だ」


「くんくん……。すごく、おいしそうな香りがしてきます!」


「口元からよだれが垂れているぞ」


「あ、あう……。これは失礼しました……」


 シルヴィが赤面する。

 照れている彼女もかわいいな。


 俺たち2人は中に入る。

 ちなみに、シルヴィは傍目に奴隷とわかることはない。

 彼女の奴隷紋は胸元にあるからだ。


 まあ、奴隷だとバレたところで何があるというわけでもないが。

 奴隷が従うのは、あくまで主人に対してだけである。

 第三者の一般市民に対しては、対等な関係となる。


 貴族などは、配下として奴隷を従えていることもある。

 その奴隷は、もちろん主人である貴族には忠誠を誓う。

 しかし、そこらの一般市民にへりくだることはない。

 むしろ、貴族の配下の奴隷は、一般市民よりも待遇や立場が実質的に上となっていることもあるだろう。


 そういう意味で、この世界の奴隷は極端に虐げられている身分というわけではない。

 もちろん、MSCの知識と、現時点でのこの世界の知識からの推測だが。

 俺はまだこの世界の貴族には会ったことがないし、奴隷についてもあまり詳しくない。


「いらっしゃい。……あら、コウタっちじゃん。また来てくれたんだ?」


 そう出迎えてくれるのは、この『料亭ハーゼ』の店員であるリンだ。

 金兎族の少女である。

 金髪に、ウサギ耳が生えている。


 金兎族は、人族や白狼族とはまた違った特徴を持つ種族である。

 具体的には、『雷魔法使い』や『獣闘士』の適正が高い傾向がある。


「ああ、この店の肉はうまいからな。今後もお世話になるつもりだ」


 俺はそう言う。

 この世界の食文化は、結構発展している。

 その中でもこの店は、俺の味覚に合う。

 現代日本の店と比較しても、十分に及第点だ。


「おう。ありがとな! へへ、サービスするからたっぷり食べていってくれよな!」


 彼女が俺の腕に抱きついてくる。

 むにゅっ。

 柔らかい感触だ。


「期待しよう」


 彼女は距離感が近い。

 他の客に対してはそうでもないようだが……。


「……って、そっちの女の子は?」


 リンがそう問う。


「彼女はシルヴィ。俺のパーティメンバーになる予定だ」


 とりあえず、彼女が希少種族の白狼族であることや、俺の奴隷であることは伏せておいた。


「シルヴィです! よろしくお願いします!」


 彼女が元気よくそうあいさつする。

 料理の香りを嗅いでから、彼女はずいぶんとハイテンションになった。

 一過性のものなのか、これが彼女の素なのかはわからないが。


 どちらかと言えば、今の彼女のほうが以前よりもさらに魅力的だ。

 食事をたくさんおいしそうに食べる女性は、特に俺の好みである。

 できれば、これが素であってほしい。


「こっちこそよろしくな。あたいはリン。父ちゃんといっしょにこの店を切り盛りしてる。あたいがつくった料理も出すから、たくさん食べていけよな」


 リンがそう言う。

 俺は注文を済ませ、リンは厨房へと下がっていった。

 そしてしばらくして、彼女が料理の皿を持ってきた。


「待たせたな。これがリトルボアの肉炒めで、こっちがレッドピッグのソテーだ」


 リトルボア。

 やや小さなイノシシ型の魔獣である。


 レッドピッグ。

 赤いブタ型の魔獣である。


「相変わらず、おいしそうな料理だ」


「た、確かに、すごくおいしそうなお肉です! 本当に食べていいのですか?」


 シルヴィが目を輝かせてそう言う。


「ああ。たくさん食べてくれ」


 俺は金貨300枚を分割払いする債務を負っている。

 無駄遣いはできない。


 とはいえ、これは無駄遣いではない。

 先行投資だ。

 シルヴィが満足できる食事を与えることによって、冒険者として活躍してもらうのだ。

 彼女の実際の戦闘能力はまだわからないが、獣戦士のジョブを得ているからにはそれなりに強いだろう。


「はぐはぐ。うー! おいしいです!」


 シルヴィは、幸せそうに食べるな。

 奴隷商館で肉が食えず、不満がたまっていたのかもしれない。


「よし。俺も食べるか。って、もう残り少ないな!?」


 普通に二人前頼んでいたのに。

 シルヴィはよく食べる。

 というか、俺の分まで食ったのか。

 容赦ねえな。

 まあ、たくさん食べろと指示を出したのは俺だが。


「おーい、リン。この肉料理を一皿……いや、二皿追加だ!」


 ここの料理の値段は、一皿あたり銀貨1枚から2枚ぐらい。

 日本で言えば、1000円から2000円ぐらい。

 少し高めのレストランといった感じだが、俺はガンガン食べていくことにする。

 金貨300枚という債務の前では、銀貨の1枚や2枚くらい誤差のようなものである。


「はいよー。たくさん食べてくれて、あたいも嬉しいぜ!」


 リンがそう言う。

 彼女は彼女で、自分の料理が認められつつ、稼ぐこともできる。


 俺、シルヴィ、リン。

 みんなが幸せになりつつ、食事は進んでいった。

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