迷い込んだシスター
魔法剣士をはじめとした一行も、乱戦の中で散り散りになってしまったようだ。
特に深刻なのが魔法剣士と数人の歩兵たちだ。背後には狼獣人部隊が迫り、正面にはホブゴブリン部隊が立ちはだかっている。
「く、くそ……押し込まれる!?」
「ぎゃあ!」
ひとり歩兵が倒されると、ホブゴブリンは嬉々とした様子で嗤った。
「くたばれ、サルどもォ!」
「ひ、ひいっ……」
「も、もう終わりだ!」
生き残った兵士たちが怯えるなか、魔法剣士はしっかりと敵を睨んだ。
「人間を、なめんじゃねえ!」
魔法剣士は剣を真っ赤に光らせると、ホブゴブリンを一刀両断した。
「こ、こいつ……」
「人間のくせに!」
「束になってかかれ!」
隊長と思しきゴブリンナイトが叫ぶと、何人ものホブゴブリンが魔法剣士に一斉攻撃を見舞った。
「やるぞぉ」
「そおらあ!」
「……」
「……」
「その程度かあ!」
魔法剣士は、頭からダラダラと血を流しながらも、ホブゴブリンたちを1撃で倒していく。さすがはレベル110の戦士である。
「す、すげえ……」
「俺たちも行くぞ!」
「おおーーーー!」
その武勇に奮い立ったらしく、他の兵士たちも一斉にゴブリンたちに向かった。
一方、小生はと言えば、樹海の外まで歩みを進めていた。
敗残兵や馬たちがゴブリン部隊に追われていたからである。
「あ、貴方は……カッツバルゲル!」
その敗走部隊の中には、シスターの姿があった。
「ぐははあははは……〇ねぇ!」
ゴブリンの1匹が部隊後続の負傷兵に襲い掛かろうとしている。
しかし、小生が黙ってウインドナイフを放つと、背後にいたゴブリンも含めて撃破した。
「ほべら!?」
――!!!?
敗残兵だけでなくゴブリン部隊まで驚きどまっていた。
「こ、このウマ……今、魔法を飛ばしてこなかったか!?」
「う、ウマのくせに!」
ゴブリン25、ホブゴブリン35、オーガ2、ゴブリンナイト1か……さすがに本気を出さないと不味いだろう。
だけど、角は現わさないよ。
「ウインドナイフ……連射」
1秒間に10本の風刃を放ちながら小生は突進した。
次々と魔物が倒れるなか勇敢なゴブリン数匹が切り込んできたが、正面に来た者は蹴り倒し、側面を狙う者には背中に透明な翼を具現化して、徹底的に切り刻んだ。
「ご、ゴブリンが……溶けていく!?」
「この馬は……一体?」
オーガ2体は目を剥くとこん棒を振り上げた。
「くたばれ!」
「エアジャベリン!」
「ごぶは!?」
「おのれ!」
「アクアハンマー!」
「はぐぼ!?」
右側のオーガは風の投げ槍で、左側のオーガは水の鉄拳で撃破すると、ゴブリンナイトは怯えた様子で小生に背を向けた。
しかし、小生からは逃れられない。
「行け、翼よ!」
2本の前翼を射出すると、翼は空飛ぶ猛獣のようにゴブリンナイトを追い、右翼が2回、左翼が3回ほど斬りつけ、ゴブリンナイトは断末魔を上げながら崩れ落ちた。
「久しぶりだね……ソフィア」
そうシスターに話しかけると、彼女は祈るように両手を組んで跪いた。
「お久しぶりですカッツバルゲル……いえ、今のではっきりしました。貴方様こそ、天が遣わした天馬です」
彼女は申し訳なさそうに視線を下げた。
「今までの数々の御無礼。どうかお許しください」
その言葉を聞いて小生は困惑した。
本当はユニコーンであることを隠していたわけだし、彼らが謝るようなことは何もないのである。
「と、とりあえずついてきて。ここにいたら新手に襲われる」




