種まきと柵作り
「ソバもアブラナも、種まきの時期が同じくらいで良かったね」
小生が言うと、少年少女たちも頷いた。
「はい。実はソバの種がなかったから、師匠のお父さんが持ってきてくれて助かりましたよ」
「花が咲いた後の受粉も、蜂がやってくれるのなら楽だしね」
人間の姿をしたグラディウスは、沢から水を汲んできた。
「はい。お水を持ってきたよ~」
「意外と加減が難しいからオレがやるよ」
一番レベルの高い男の子が水をやっていると、彼の父である村長が姿を見せた。
「作業が終わったかな?」
「まって、あと少し……」
「これが終わったら、今度は村の周りに柵を作るよ」
「はーい」
間もなく村人たちは、拾った枝の先端を斜めに切って尖らせ、村の外に突き出すように斜めに差し込んだ。
これを短い間隔で行えば、幼体ゴブリンや肉食獣は容易に入ってこれなくなる。
「棘の生えている植物とか、葉先が尖ったモノを植えたくなるね」
何かいいものはないかと地面をよく見てみると、おや、ちょうど棘の生えた植物が生えている。
「これは……アザミかな?」
隣にいたグラディウスも頷いた。
「野生のボリケロアザミだね~。雑草って嫌がられることも多いけど、若い葉っぱや茎は食べられるんだよ~」
「柵の根元に生やしたら、多少の効果はあるかな?」
「このアザミはけっこう大きくなるし、突き出した枝とセットなら襲ってきた方も嫌がるだろうね~」
「じゃあ、株分けしておきますよ」
話を聞いていた少年少女の1人は、ボリケロアザミを丁寧に掘り起こしはじめた。
「向こうに生えていたイヌバラも役に立つかも……」
小生は頷いた。
「じゃあ、挿し木で増やそうか。同じ長さに切って等間隔に刺して」
「この際さ、柵の外側にアザミを生やして、内側にイヌバラの垣根を作ったら~?」
「そうだね。じゃあ女の子たちで挿し木をしてよ。小生は何か襲って来ないか見張ってるから」
話をしていると、ちょうど蜂の羽音が聞こえてきた。
「ねえ、グラディウス……蜂を呼び寄せる花……まだある?」
「あるけど~……もしかして……」
小生は村長に話しかけた。
「村長、木材……まだあります?」
「ええ、ありますが……もしかして、蜂の巣箱を作るのですか?」
「はい、あそこに設置するとおもしろいかな……と」
ちょうど柵を作ろうとしている場所には、子供の背丈くらいの小さな岩が転がっていた。
「なるほど。あれを盾にするように巣箱を配置して、入り口以外を土で覆うんですね」
「ええ、バラの垣根を越えてきた敵もびっくりするでしょう」
村長が木材を取りに村へと戻りはじめたとき、妙な感覚が小生の意識に飛び込んできた。
――この前は妙な馬にやられたが、今度こそ目にもの見せてやる。行くぞお前ら!
――ギョエッヘイ!
「どうしたんだい、カッツバルゲル?」
グラディウスや少年少女たちは心配そうに、小生を眺めていた。
「村長が戻ったら、この作業を中断しよう」
【カッツバルゲルの独り言】
要するにこういうことか。
幼体ゴブリンがレベルアップして、ホブゴブリンになって。
ホブゴブリンがレベルアップして、ゴブリンナイトになって。
ゴブリンナイトがレベルアップして……
ああ、そうか、一般ゴブリンがなれる限界はゴブリンナイトまでで、ゴブリンパラディンになれるのは、由緒ある血を受け継いだゴブリンだけなんだね。
でも、ゴブリンナイトでも、400体に1体なれるかなれないかという話だから……シビアだな。




