プロローグ 辺境の農村の現状
初めての書籍化と慣れない作業のストレスのため投稿を放置していすみませんでした。今日から二部終了までをなるべく毎日あげたいと思います。
「よし、日も天辺まで来たしここまでにして帰って飯食うぞ」
そう言って父であるエドワードが眩しそうに太陽の位置を見ながら、僕に作業終わりを告げてきた。
それと同時に父さんが作業のため身体強化に使っていた魔力を止める。
「わかったよ、父さん。帰ってご飯食べよう」
「おう」
いつものようにムキムキで無骨な掌でがしがしと頭を撫でてくる。かき回すように撫でてきて僕の頭が揺れる。
父さんのスキンシップを受けながら、僕も身体強化を弱めて生活モードに移す。
強化を切らずに弱めたのは村の襲撃事件以来、何故か身体強化が切れなくなっちゃったんだよね。
まあ弱めた状態だと魔力消費は自然回復より少なく実質ゼロになり、強化を強めてもほとんど魔力を使わなくなったから別にいいんだけど。
これに関して僕に何が起こったのか、ここトレイム村にハイエルフであるアリアちゃんがまだいた頃に聞いてみたんだけど、その時はじっくりと観察されたあとにペタペタと触られ心なしかうっとりした声で、「すごいねルカくん。──大丈夫なんにも問題ないよ」それだけ言われて、更に体中をまさぐられた。
僕はまだ何か調べているとのかと思ってされるがままになっていたけど、「良いね」とか、「素晴らしいよ」とかブツブツという声が少しずつ大きくなって、それと共に鼻息が荒くなって顔も近くなってきた。
そこでずっと見ていたアリーチェが嫉妬してか、僕に抱きついてアリアちゃんに「めー!」と言ったところで、お触りは終了した。
アリアちゃんは「ごめんごめん」と軽く謝りながら「詳しいことは内緒。ルカくん自身が理解しないとね」と、どういう状態なのかは教えてくれず悪いことじゃないということだけ教えてくれた。
「こいつはまたボーッとしやがって」
父さんのそんな声が聞こえたと思ったらベチィという音が、頭から聞こえた。
衝撃を受けた事は音で分かっても、痛みを感じることや僕の頭が動く事はなかった。
「いってぇ、お前ほんと頭固くなったな」
顔を上げると父さんが僕を叩いた手を痛そうに振っていた。
そう、自分で受け入れた場合は違うんだけどこうやって不意にやられると、身体強化が効いているのか僕の体は頑丈になるみたいなんだ。
例外はもちろんアリーチェだ、アリーチェに関しては不意にだろうが何だろうが全受け入れに決まっている。
あ、例外はあと一つあったね、それは──
「ルカもう帰るぞ! 俺は腹が減った!」
「あ、うん。そうだね。僕もお腹へったよ」
「おう、早く帰るぞ」
思考は中断されて別にお腹は減ってなかったけど取り敢えず同意して僕と父さんは連れ立って歩く、今日は手ぶらだ。というか最近はずっと手ぶらだ。
歩きながら僕は目の前に広がる光景を見る。
二年くらい前、僕がまだ十歳だった頃には開拓予定地の一割程度しか開拓されていなかったこの魔力草の畑も、今ではすべての開拓が終わり視界に収めきれないくらいに魔力草が生っている。 魔力草って見た目はほとんど苺みたいなものなんだけど、葉っぱも根っこも果実も捨てるところはないくらい使い道があるらしいんだよね。
開拓地の周りにあった柵も四メートルくらいの塀に変わりそれは村にある普通の農地まで覆われていて、もし森から獣や魔獣が来たり、盗賊とかに襲われても簡単には突破できないように作り変えられていた。
今日はこの塀がズレていないか、沈んでないかをチェックするのが仕事だった。
村の開拓チームで作ったことになっているが、僕が生み出した超硬質にした土魔法から創り上げたものにモルタルみたいなもので表面を加工して、土魔法で創ったブロックを積み重ねて出来てるように見た目をごまかしたものだ。
村の人達には創っているところ見られないようするのが大変だったけど、僕達がこの村に留まれる時間もあまりなかったから急ピッチで塀を作らないと間に合わないから仕方ないよね。
父さんも離れる村のことを心配してたから、ちょっと張り切って厚く固くしすぎたような気もするけどまあいいよね。
沈まないよう動かないよう塀の基礎をバカみたいに深く広く頑丈に創ったけど、まあその基礎は土に埋まって見えないから大丈夫だよね。
だから実際の塀の長さは八メートル位あるんだけどバレないよね。
塀で村の中に雨水が溜まらないように通常の農地の方に外と繋がる大きな溜池も作ったし、それに溜池に雨が流れ込むよう塀に沿って側溝も掘った。これは開拓チームの人達がやった。溜池作りはわざと目立つようお祭りのように村中の人を呼んで、イベントにしてから掘った。
農地の地面は開拓地とは比べ物にならないくらい掘りやすく、開拓チームが総出とはなったけれど一日もかからずでかい溜池が出来るのは、それはまあ見ものだったと思う。
「この村にいるのもあとちょっとかぁ」
僕は生まれ育った村に創り上げたものを見て、ふと寂しさを感じつい声に出してしまった。
それを隣で聞いていた父さんはこの二年で十五センチほど伸びた僕の頭にいつもと変わらない手で、いつもとは違う優しい手付きで撫でてくれた。
元開拓地から村に着いたので裏門から入る。前は木でできていた村を囲う塀も二メートルほどの塀に変えてある。
ここも溜池と同じく開拓チームが作り上げた。僕が創ったブロック状の土魔法に、外壁と同じモルタルみたいなものを土魔法と水魔法から創り、これまた村人に目立つよう集めて、子供に一部を作らせたりしながらブロックを積み表面を塗り作り上げていた。
こうやって一日であっという間に作るのをわざわざ見せたりしていたから、外壁のこともなんとなくこいつらなら出来るんだろなと受け入れられた。
そうやって、僕が創り出したものをみんなで創ったようにごまかしてくれたわけだけど、僕だって僕が他の人達よりちょっとだけ生活魔法の使い方が違うのは理解しているから大人しく言うことを聞いた。
あとは変わったのは……そう、裏門をくぐり抜けてから少し歩いたところで教会が見えて来るんだけど、前とは違って奥行きが三分の一くらい無くなっている。その部分が崩壊しちゃったから。
建物は直したけど、崩壊した部分は直さずそれ以外を修復した形になったから、狭くなったんだよね。
犯人は見ればすぐに分かる。教会の奥にあった聖木だ。
二年前と比べて樹高が二倍に幹の太さが三倍にまで成長している。
室内にあった聖木が壁や天井を破壊しながら、ぐんぐんと急成長していったときは本当に驚いた。
その事件の日、アリーチェと魔の森とかいう所にあるという世界樹とのつながりをここからでも出来るよう僕が手助けしないといけないらしいのだけど、さらにそのための手助けをアリアちゃんがやってくれるというので、そのために必要な正式な名前を語りたいから僕に半日時間をちょうだいとか言って、僕の部屋で名前を教えてもらったけど──自分の生まれを語っていくのが本当の名前らしく「始祖・世界樹の」と語りだして本当に長かった──最後に「アリアーシオン・ユグドラシル・アリゾテオラル」と言い終わった途端、外から轟音が響いた。
村襲撃からそんなに立っていない頃だったので、村のみんなも慌てて音のした方向に行ったらしく人が集まっていた。
そこで見たのは、メリメリと音を立てながら聖木が成長していきレンガっぽい壁が崩れていくシーンと、それを呆然と見つめる神父様、髪が異常に伸びて慌てているシスターの姿だった。
あとからゆっくり来たアリアちゃんが「あれ? 繋がり強くなりすぎたかな?」と、ポツリと言ってたような気もするけど気のせいだろう。
少なくとも僕のせいじゃないよね? ね?
「しっかし、でっかくなったなぁ。聖木様が成長したからウルリーカさんもその影響を受けたんだったか?」
「うん、アリアちゃんがそんなこと言ってたよ」
なぜ聖木が成長したかは語らず、ただ髪が伸びたのは聖木が成長したからウルリーカもその影響を受けたからだろうねとだけ言っていた。
シスターが巫女様だったってばらした後は巫女様呼びしてたんだけど、ウルリーカさんに名前で呼ぶようにと困った顔をして頼まれたから僕達家族はみんなウルリーカさんと呼んでいる。
村の中で変わったことはこのくらいかな?
父さんと昼の暑い日差しを浴びながら、帰り道をゆっくりと歩いていると見覚えのある赤毛の少年が正面から走ってくるのが見えた。その少年は僕と同い年なのに拳一つ分くらい大きかった。
「お、エドさんとルカか。もう塀の確認は終わったのか?」
「あ、こんにちわ、アダン君。うん終わったよ。まあ、本当はとっくに終わってたんだけどね。再確認してたんだ」
「そっか終わったか! じゃあエドさん。また剣教えてくれよ!」
「アダン、俺達はこれから飯だ。それに今日は……はぁ、食った後にちょっと休憩してからなら教えてやる。今日は少しだけだぞ」
「ああ、分かった! ありがとうな!」
父さんは多分断ろうとしたんだけど、しょぼんとするアダン君の顔を見て仕方無しに受けていた。
最初は子供に教えるのなんてガラじゃないって、言ってたけれどなんだかんだでアダン君にはよく教えていた。
頑張ってね父さん。
「おい、他人事のような顔してるがお前もやるんだぞ」
「えっ!? なんでまた呼ぶの!? 僕には剣を扱う才能なんてまるでないよ」
最初にアダンくんと一緒に習ったけど、好きに素振りしてみろと渡された木剣を魔力で強化して思いっきり振ったら、スっぽ抜けて地面に刺さってその衝撃で木剣が地面ごと爆発したんだよね。あれはひどかった。
自己強化かけても何しても剣を持った途端、動きがちぐはぐになるんだよね。
もし才能とか見れたら剣の才能:Zとかでデバフかかってるんじゃないかな?
「お前に才能なくても、剣持った相手がどんな動きするのかは知っておいたほうがいい」
「ひどいや、せっかくアリーチェとゆっくりお昼寝でもして過ごそうと思っていたのに」
「お前は家にいるとアリーチェと寝るかゲーム? ばっかりやってるからな」
確かにあれ以来生活魔法もちょっとだけ新しいことが出来るようになって、国民的ゲーム機の性能から、超国民的ゲーム機くらいの性能を出せるようになったからそればっかりやってた気がする。
「んじゃ、俺はまた走ってるから飯食い終わるくらいに来るぞ」
「飯食い終わって、休憩した後くらいだ」
「わかってる、わかってる。じゃあな二人共」
そう言いながら、アダンくんは手を降って走っていった。
「全く、あいつは……」
「いいじゃない、父さん楽しそうだよ?」
「まあ、楽しくないといえば嘘になるな。アダンはそこそこ出来るようにはなるだろうし」
「才能あるんだ。アダンくん」
「あるっちゃあるんだが……」
そこで父さんは僕を見て、「はぁ」とため息を付いた。
「どんだけやっても理不尽なくらい敵わない物ってのは、この世界にはいくらでもあるんだよ」
「へぇ、まあ上には上がいるってよく聞く言葉だもんね」
「やっぱわかってねぇな」
そんな事を言いつつ父さんは僕の髪の毛をグシャグシャにかき回した。
父さんと話しながら歩いていたらもう家が見えてきた。
扉の前まで来るといつものように勢いよく、扉が開く。
「おかえりなさい、おにいちゃん! ……と、おとうさん」
そこに僕にはニッコリとした笑顔をみせてくれるかわいい妹の姿があった。
胸元で母さんが紐を編んで作ってくれたペンダントに収まっている僕の魔力結晶が太陽の光を浴びて揺れながらキラリと光る。
僕のかわいい妹アリーチェ。只今四歳、ショートボブで毛先の緑色が濃くなって、僕達の呼び方もはっきりとした言葉になった。まだまだ顔も体も幼いけれどすくすくと成長中。
そして絶賛反抗期真っ只中! ただし父さんにだけ!
ぷっくりと膨れた頬と不機嫌そうな声を受けた父さんはショックで今日も膝から崩れ落ちた。
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初めての書籍化と慣れない作業のストレスのため投稿を放置していすみませんでした。今日から二巻部分までをなるべく毎日あげたいと思います。




