第十四話 僕の周りの人達
「じゃあ、母さん、アリーチェいってきます」
「いってくるぞ、ソニア、アリーチェ」
「いってらっしゃい、エド、ルカ」
「……いっえら……さい……、とう……たん、に……たん」
最近、父さんは僕と同じ時間に出る。父さんが出るには少し早い気もするけれども、父さん自身が早起きに目覚めたんだとか言ってたからまあ良いか。
でも、母さんはいいとしても、アリーチェはもうちょっと寝ててもいいのに……挨拶してくれるのは嬉しい。──本当に嬉しいんだけど、いつも、今みたいに半分寝ている。
少し前、作業が終わって帰ってきて、アリーチェがちゃんと起きてるときに「朝はいっぱい寝てて良いんだよ?」と言ったが、「いってらっしゃい、するの!」「ぜったいなの!」と言って聞かなかった。
でも、挨拶してくれるのは嬉しいんだけど、アリーチェがいつも「いってらっしゃい、にいたん、とうたん」とか「おかえり、にいたん、とうたん」とか、まあ、いってらっしゃいの時はこんなにはっきりと言ってくれたことはないけれど……、とにかく、僕を先に呼ぶから、それで父さんに嫉妬されて、恨めしそうに見てきたりとか、たまに嫌味も言われる。
流石に鬱陶しかったので、アリーチェに父さんから先に呼ぶように頼んでみた。
アリーチェは「にいたんから、だめなの?」と純粋な目で見てきたのですぐさま「いいよ」と──言いたかったけど、涙をのんで、説得をした。
なんとか、「父さんがさびしがってる」とか「兄さんは我慢できるけど父さんは出来ないみたいなんだ」とか色々言ってたら「しかたない、とうたんなの」と、ため息を吐いたふりをして、大人ぶっていた。一応父さんから先に呼んでくれることになった。
今日はたまたま父さんから名前呼んだけど、朝の寝ぼけてる時はよく僕の名前の方から言っている。
これで少しはましになるだろうと思っていたんだけれど。
今日みたいに先に名前を言われた時はドヤ顔で自慢してくるようになって、鬱陶しさは変わらなかった。
そして、開拓なんだけど、見ずに動かせるボーン一体だけだったのが、僕にもよくわからないんだけど、なぜか一足飛びに三体になった。これで効率が僕一人の時の四倍になったぞ。
あれ?これって始めた理由って開拓のためじゃないな──そうそう動作の練習のためだった。
これを増やしていっても動作制御の練習にはなるけれど、それだけじゃなんか違う気がしたので、風魔法を使った効果音を鳴らせるようにしようと思った。
ゆくゆくはBGMとしても鳴らしたい。
でも今はまだ、前に使ったようなホイッスル音くらいしか出せていない。
ついつい、音楽といえば楽器を想像してしまい、楽器の音を出そうと思っても、なんというか取っ掛かりがない気がしてまるで成功しなかった。
僕が出せる単純な音のホイッスルも楽器ということは分かっているんだけど、弦楽器とか管楽器とかを考えて試そうとしても、 全然うまくいかない。
どちらも空気の振動というのはわかってるんだけどな。
「やっぱり、複雑な音出そうとしてるから駄目なのかな?」
そう思ったので、とりあえずホイッスル音を長く出したり、短く連続で出したり、音の高さを変えてみたりした。
ピッピッピッとかピーーーーとかピピピピとか鳴らしてると、すぐに頭に衝撃が走った。
「うう、なんか懐かしい痛み」
「ルカ! 何かあったと思っただろう! しかもうるせぇんだよ!!!」
そうだった、お風呂場で鳴らすのも、近所迷惑だろうと思って、音楽系は少しくらいだけにして、後回しにしていたんだっけ。
しかも音の長さとかは違っても警告音として前使ったじゃないか……なにも考えず練習してしまっていた。
「ごめんなさい、父さん」
「とにかく、なにもないんだな?」
「うん」
「今回は許す、だがな、他の奴等にも迷惑を掛けたんだぞ」
「本当にごめんなさい、ちょっと今から謝ってくるね」
「……そうか、作業中止して、謝ってくるのか」
「? ──うん、駄目だったかな?」
もう一度「いいや」と父さんは首を振った。こちらを観ている他の開拓メンバーを指差した。
「良いか? ちゃんと偉いやつを中心に謝るんだぞ? まずはロジェだ。アイツはここの一班リーダーと、俺の補佐としてここにいる」
父さんが何かサインみたいなのを送って、レナエル父ことロジェさんはうなずいた。
「どうしたの父さん?」
「ああ、なんでもなかったぞって、サインを送っただけだ」
「う……ごめんなさい」
「おう」とうなずきながら「一班は開拓作業が基本だ」と、父さんのサインを伝えているっぽいロジェさんと他の人達を見ながら言った。
「うん、知ってるよ?」
「じゃあ、他の奴等の名前は言えるか?」
「……う」
知らない。いままであまり人の名前など気にしていなくて一緒に作業している人たちだなーと思ってただけだった。
それに班を組まれてたってことも知らなかった。
「あそこはロジェには直接、謝りに行って、他の奴等に頭を下げろ」
そして父さんは開拓済みで魔力草を育ててる方にいる人達を指差した。
「あっちは最近リーダーになったヨナタンが中心となって、魔力草の効率のいい育て方の研究をしているのが二班だ」
効率のいい育て方か──僕は開拓地をなんとか広げなきゃ、としかほとんど頭になかったな。
それとヨナタンさんは、知っている。僕に農作業を教えてくれた人だ。いつも心配そうに見守ってくれていた人。
「ヨナタンさん、こっちに来たの?」
「そうだな、前からお前が世話になってたんだが、こっちでリーダーにもなってくれて助かっている。──ついでだ、謝ると一緒に礼も言っておいてくれ」
「父さんじゃなくて、僕でいいの?」
「ああ、お前からが良いんだ」
「? うん、わかった」
鍬を置いてまずはロジェさん達の所から謝りに行った。
ロジェさんはもうすんなよ? と言って僕の背中を叩いた。他の人達も次々と僕の背中を叩いていって。最後にロジェさんが僕の頭をなでた。
ヨナタンの所に行くとヨナタンさん以外はしかめっ面をしてたけれど、ヨナタンさんがなだめてくれて僕が謝るとその場は収まった。
順番は逆になったけどちゃんと、ヨナタンさんにも謝ろうとしたら、止められた。僕の世話と父さんからのお礼だけはちゃんと言うと「そんなこと良いんだ、坊が元気そうで本当に良かった」と子供みたいに高く抱えられた。まあ、子供なんだけど。
「今度の休養日にでもお茶でも飲みに来なさい」とも言われた。
今度、時間があったらアリーチェも連れて遊びに行ってみよう。
作業が終わり──太陽が落ちて、家に帰った。
お風呂の物語を決めてなくて即興で考えた「棒人間対ドット父さん」をアリーチェに見せた。ちなみに対とはついているけど二人は戦わず、協力して悪いフォレストウルフを倒しに行く話だ。
そして寝る前に思う、今日はなんだか色々あった気がした。だって、少し世界が広がった気がするんだ。
誤字脱字報告ありがとうございます。
50万PVを達成いたしました。
皆様に感謝を、自分に胃薬を。




