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プロローグ1 辺境の農家の一日

「よし、日も暮れるしここまでにするぞ」


 そう言って父であるエドワードが僕に作業終わりを告げてきた。それと同時に父が畑を耕すために身体強化に使っていた魔力を止める。


「わかったよ、父さん。帰ろうか」

「おう」


 ムキムキで無骨な掌でがしがしと頭をなでてくる。撫でるというかかき回されてる感じだ。それを受けながら今まで振るっていた鍬を肩に乗せ僕も身体強化を切る。

 朝から続く開拓のため、もう汗と泥でぐちゃぐちゃだ。

 

「ねぇ父さん、今日もお風呂入れていい?」

「ああ、もちろんいいぞ!」


 今ではだめだと言われることはなくなったが一応確認はとっておく。

 最初の頃は少量のお湯を作るのにも魔力を無駄に使うなとか、農作業の身体強化に使えと言われた。魔力なら大丈夫と言っても認めてもらえず、風呂に入れないままだった。


「あん時、うつろな目で魔法で風呂桶作ってお湯ためだしたときは俺の息子はおかしくなったのか? と思ったがお前に無理やり入れられてからはもうこれ無しじゃ生きられねぇよ」


 ガッハッハと笑いながらその時の話を毎回と言っていいほど父は話す。

 当初はこの世界での父親は発言力が非常に強いので我慢するしかなく、おとなしく従っていた。

 ある日、その時のことは僕はあんまり覚えていないけど我慢の限界が来たらしく、無理やり土魔法で風呂桶を作ってお湯を張り、いいから入ってみろとばかりに父を無理やり風呂に沈めたみたいだ。


 今までは少ないお湯で体を拭うだけだったからか、大量のお湯で汚れを落として湯船に浸かる快楽には父さんも勝てなかった。

 ぶん殴られても仕方ないことをしたけど、まあ結果オーライというやつだ。


 そうこう言っている間に我が家についた。辺境にある農家だが家は狭くはない。僕の部屋も狭いながらあるくらいだ。

 貧乏農家の家なんてボロっちいものだと思うんだが、村の家々だけは開拓初期に貴族が雇った魔術師数十名が訪れ、結構立派なものなのに魔法であっという間に作っていったんだと父から聞いている。


 さっきから話に出しているけれどこの世界には魔法がある。

 この世界では魔法は身近にあるものでみんなが生活の一部として便利に使っている。

 水魔法で飲み水を作ったり、火魔法で種火をおこしたり、魔力で身体を強化したりと色々だ。


 体の中にある魔力を理解し利用するのは誰でもでき、水を出したり火を出したりなどの簡単なことは呪文の詠唱もいらない。

 誰にでも簡単に使えるし主に生活のため使う魔法だから生活魔法というらしい。

 

 攻撃魔法や強化魔法などそれこそこの村の建物を作っていった魔術師たちのように様々な強力な効果がある魔法を使うためには王都にある魔法学校に通って勉強をいっぱいしないと使えないと、村の神父様から聴いた話だ。 


 その神父様いわく神に愛されて神を愛していれば回復魔法も使えるとのことで、回復魔法が使える神父様は若いうちにこういった辺境の村々に赴任して徳を積んでいくのだそうだ。

 だからか僕みたいな子供にも優しくよく話を聞かせてくれる。


 ちなみに僕は転生のときに神様に会った記憶はないし声も聞いていないし、チート的なスキルや魔法などこれっぽっちもない。

 魔力に余裕があるのは生まれてからすぐに記憶が戻っていたので地道に鍛えてきた成果だ。

 詠唱を使わない魔法なら結構な自信があるがこの村比較なので大したことはないだろう。とてもじゃないがあっという間に建物なんて作れない。

 

 ぼーっとそんな事を考えてたら父さんに頭を軽く叩かれる。


「また、ぼーっとしやがって。変なことでも思いついたのか? 」

「違うよ父さん、ちょっと考え事してただけ」

「だったら早く家に入れ、飯と風呂だ」

 

 はーいと返事をして家のドアを父さんのあとにくぐるといつものように母が夜ご飯を作っていて食欲をそそる匂いがしてくる。

 

「おかえりなさい。エド、ルカ」

「おあえり、にいたん、とうたん」


 まだ幼く舌っ足らずな妹がとてとてと駆け寄り僕に抱きつこうとする。

 野良仕事で汚れた体に抱きついては妹が汚れるから止めたいという気持ちと、止めたら悲しい顔をするという気持ちとで葛藤が起きるが後者が勝ち、抱きついてくるのを受け止め抱きしめかえす。


「ただいまアリーチェ、ただいま母さん」

「おう、ただいまソニア、アリーチェ。なぜ俺の天使ちゃんに先に呼ばれてしかもそんな汚い体なのに抱きつかれているのかな?」


 後半のセリフは僕に向かって言っている。わかると思うが父は二歳になる妹にひどく甘い、それはもうドロドロだ。自分が先に呼ばれなかっただけでもこんな風に僕を睨んでくる。

 今回は僕に抱きついてきたからなおさらだ。

 父さんがそんな大人げないことをしていると母さんから叩かれる。


「そんな怖い顔をしながらルカを睨むから嫌われるのよ」

「……は? えっ? 俺嫌われてるの? 」


 母の冗談でも妹が絡むだけでこの世の終わりが来たかのような表情し父は絶望する。ぶっちゃけみっともない。


 母に妹を預け父をほっといて僕は風呂場に向かった。


    ◇◇◇◇


 さてと、と、つぶやいて魔力を励起させながら今までのことを思い出す。


 最初この世界で前世の記憶が戻った赤ちゃんのときだが、母は水魔法で湿らせた布で僕の顔などを拭いてくれたり、暑いときに風魔法で涼ませてくれた。そのときに魔法があると気付き異世界に転生したのだとわかった。


 前世で何が起きてここに来ることになったのかは非常に曖昧だがひどく身勝手な人間が起こした不幸がふりかかったということだけ漠然と理解した。


 個人的なことは靄がかかったみたいに思い出せない。

 知識や常識などおそらく前の自分が記憶していたであろうことははっきりとそれこそ映像のように再生できる。


 更に深く思い出しながら体内の励起させた魔力を外の魔力と回転させるように一体にしていく。


 赤ちゃんの頃に母に抱かれていると母が魔法を使ったときに体内の魔力が動くのがよく分かる。

 これを赤ちゃんのときに受けるので本能的に魔力が動かせる様になるのだなと考えた。

 この妄想癖とも言える癖はこの赤ちゃんのときについたものだ。なにせ赤子は暇だ。飲むか、出すか、寝るしかないのだから。


 暇な奴が魔法なんて見たらどうする?もちろん使ってみる。

 母がしていたのは魔力を掌に集め「水よ」と唱えていただけだ。


 同じように魔力を集めることができ掌に集め「水よ」とつぶやいた。もっとも赤ちゃんの喉では「いうお」としか言えなかったがそれでも魔法は成功した。

 掌を湿らせる程度だったのでその後母に粗相したものを触ったのだと思われた。


 初めて魔法を使ったときは何かが体の中から抜けていく感覚があった。疲れたわけではないがなにか大切なものが抜けた不思議な感覚だった。

 それから魔法を使うと抜け、時間を置くと戻るのがわかった。

 それは当たり前に魔力だったわけだが、そう頭で理解して感覚としての理解が追いついた。



 そこで一旦考えを止め、魔法を使用する。


 生活魔法での水魔法は、量は魔力量で温度はイメージで変化できることがわかったので起動させるとイメージ通り風呂桶ギリギリまでのお湯がたまる。

 ギリギリまで貯めるのはこれから手と顔だけ洗い夕ご飯が始まるのでその家族全員の洗う分を余分に貯めているからだ。

 最近は僕の魔力に余裕があるとわかっているからみんな遠慮なくいっぱい使ってくれるので出してる身としては嬉しい限りだ。

 僕としてはお風呂入ってからがいいのだが夕ご飯が先なのは「まずは飯が先だ」と父が決めたからだ。


木桶でお湯をすくい、手と顔を洗うついでにうがいまでして、妹を呼び同じように洗ってあげる。このあと父と母も洗って夕ご飯をみんなでった。


 あとはお風呂に入って寝るだけとなる。


 これが、異世界転生したけどチートもテンプレ的展開もなく辺境の農家で平々凡々とした毎日を過ごす十歳になった僕の一日だ。

生まれてはじめての小説投稿です。

拙いところが多々ありますがよろしくおねがいします。

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