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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

股間にハッカ油を塗った話

作者: 夜兎二十日

 “ハッカ油”というものをご存知だろうか?


 夏場においては虫除けなどに高い効果を示すことで知られた、虫が嫌いな人々の最大の味方である。一見なんてことはない、ただのミントがドギツいことこの上ない便利な液体だが、何も良いだけではない。奇人変人たちによる、主に股間に塗るなど本来の用途から明らかに逸脱した行為をした際、筆舌し難い地獄を股間に齎してくれるという噂はTwitterでもAmazonのレビューでも至る所で散見される。

 特に某動画サイトの管理人が塗ったことでもそこそこ有名だろう。

 馬鹿な行いであると、偉大なる先人(クソバカども)を見て嘲笑一笑に付す。ネタとして半ば見下しながら腹を抱えて愚行を観測していた私には、とてもでは無いが無縁な世界であるだろうと思っていた。


 あの時までは。



  ◆◆◆



「─────あぁ……」


 一本の小さなスプレーと、パンツを脱いでモノが丸出しの半裸の自分がここにある。これを人は変態と呼ぶのだろうかと思いながら、内心嫌そうにスプレーの端をつまんで中の液体を見る。


「どうしてこうなった」


 なぜ塗ることになったのか、事の経緯はグ○ブルのイベント中まで遡る。


 グラ○ルの古○場にてひたすら周回していた私はモチベが減衰しているのを確かに感じていた。しかし、走ったことで得る報酬は受け取り切りたい。戦力が低くとも張り付く時間と手動で周り切るモチベさえあれば、行ける筈なのだと。


 だが決意や覚悟というのはそう長くは続かない。私は特に三日坊主であるから尚更だ。


 だから私はカンフル剤となるものを探した。走り終えたら自分にご褒美を買うのはどうかと思った、しかし私はバイトもしていない高校生。金欠の学生にとって、高い買い物はそうできない。悩み悩んだ末に考えついた先は───ネットにおける我が故郷、Twitterであった。

 有識者もとい私を玩具と認識する身内達に「貢献度10億を稼がなければ罰ゲームをする」「罰ゲーム募集中」と宣言する。着いた反応の数と恐ろしい罰ゲームの羅列に応えるかのように私はひたすら走った。言うなれば背水の陣、恐怖を背にただひたすら周回をする。


 だが私は弱すぎたのだろう。奮闘虚しく貢献度9億7900万────ほんの2100万足らず、惜しくも届かなかった。ゆえに私は罰ゲームを受け入れることとなる。

 募集していた罰ゲームのリクエストを見てみる。股間に液体窒素、股間にデスソース、貯金、ガチャ禁、レア武器売却、股間に刺激物等など……()()()股間に対する刺激を求めたリプがやたらと多い。

 結局私は、ネタ的にも刺激物を選択した。


「塗るか……?」


 ハッカ油になった理由は単純だ。刺激物がそれしか無かった。デスソースは買いたくないし、マジで生殖機能がお亡くなりになる可能性が看過できない。結局手元にあったハッカ油と相成った。


 一人部屋の中でハッカ油の瓶を手に取りながらPCの前でゲームの周回をする。

 今日塗らなければならない。明日、明後日は平日だ。とても塗るには準備を整える時間が足りない。塗ることはしたくない、だが塗らなければならない。

 奴らはデマには敏感だ。嘘を言えば叩かれるし、信頼も失う。塗ったフリして悲鳴ツイートしても嘘はきっとバレるだろう。故にこそ逃れられない。証拠として声も残さなければ、納得させるには程遠いだろう。

 数分間責任感と好奇心と恐怖がぶつかり、結局責任感が勝った。


 決意を固める。


「まずは掌に……あれ?」


 おかしい、と。勢いよく出るはずのハッカ油が出ない。最後に使ったのは夏であったためもしや詰まっているのだろうかと思いつつ何度も掌にプッシュする。


「おかしいな……でも……ん? ああ大丈夫か」


 部屋の明かりに照らすと噴射していた先の皮膚には光沢があったため、恐怖を飲み込み股間にその手をなすり付ける。敢えて自分に対して言うが、変態である。馬鹿である。


 手のひらを股間になすり付ける経験は初めてのものであったため、ちゃんと塗られているか多少の不安があった。

 余談だが、私の兄は過去に股間にハッカ油を直プッシュして地獄を見ている。それに比べて擦り付けるだけならまだ優しいだろうと、最初はそう思っていた。


「およよ?」


 股間からは痛覚的にも何も反応はない。もしや量が少なかったかと思いつつゲームの周回を再開した時、急に股間に寒気が走った。まるでドライアイスを肌に密着させた時のような、とてつもない感覚。


「あ゛っ゛」


 寒さはやがて熱を帯び、痛みを伴い神経へと強く訴えかける。後悔はした、だけれどもう遅い。塗られたハッカ油は字を読んで如く“油”なのだから、水をかけても取れやしない。


「あ゛ぁ゛あ゛っあ゛っ゛……あ゛っ」


 耐えられない。あまりの痛みに股間を抑える。だが腹痛のそれとは違う痛み、抑えても影響は一切ない。純粋な痛みがそこにあった。凄い形相になっていただろう、顔の疲れはそれを覚えているが、鏡を見ていないので分からなかった。


 傍から見れば変態だが、私としてはこの時マジで将来的な死を覚悟した。他人が塗って痛がるのを見て笑うのが好きなのであって、自分が苦しむのは好きではないのに何故こんなことになったのか。過去の己を殺したくなる。


「こ、股間が……南極っ……! あ゛ぁ゛っ……!」

 ※実際に発した言葉です


 まさに南極の如し。体感気温は極めて低く、股間の皮膚だけシベリアや南極に海外旅行したのではないかと錯覚するほどの、圧倒的冷感。まずい死ぬ、と思わずダンゴムシのように身体が丸くなる。だがそれも虚しくなんの意味もなさない。


「ダメだこれっ……ダメなやつ…あ゛ぁ゛っ!!?」


 痛みに耐えかね、太ももをベシンベシンと右手で叩く。だが股間を襲う痛みは絶えず、そのまま地獄の六分が経過した。この間に激痛に耐えながら気を紛らわせるように、録音した自分の声をTwitterに投稿するなどしてTLを少しざわつかせる。

 耐えれど耐えれど意味もなく、少しでも暖かくしようと風呂に駆け込む。先述の通りハッカ油は油であり、撥水性なのを忘れていたが、仮に覚えていたとしても股間にオリーブオイルを塗るのはブルジョワさを感じるがもっと嫌なので決してすることは無かっただろう。

 食器用洗剤を塗るのも、股間からフローラルな香りが広がるのは何となく嫌すぎる。


 話が逸れたが、兎も角部屋から飛び出した私を見て母が声をかけてくる。


「慌ててどったの」


 純粋な疑問だったのだろう。だが股間にハッカ油を塗る息子が二人に増えたと知れば母の悲しみは必須、怒りを避けるためにも私は嘘をつくことを決意した。


「なんでもない!!」


 脂汗を垂らしながら大声で返した。なんでもないどころか、股間に異常ありまくりである。


「もしかしてハッカ油股間に塗ったん!?」


 秒でバレた。


「塗ってない!」


 また一つ嘘を重ねた。

 風呂場に走り、脱衣RTAを終えて洗うところを洗ってから湯船に浸かる。塗るのが少量であったためか、この時点でかなり痛みはマシになっていた。が、


「……?」


 おかしい、何かがおかしい。お湯は足の指先から肩まで浸り、心も全身もくまなく温めているはずなのだが、股間だけやたらと冷たいのだ。壊死しているのではないかと思うほど冷たい、触れれば普通の体温なのに冷たい。温度差で風邪をひきそうだった。


 風呂に浸かって十分ほどした後、股間の痛みが引いてきた。やがて耐えれるようになり、そのまま頭を洗い、全身を洗い、洗顔をして浴室から出て体を拭き、地獄は幕を閉じた。




 感想を言うとするなら股間にハッカ油を塗るヤツはアホの一言に尽きる。やがて拷問として規制されそうなくらいにはとてつもなく痛いし、いくらドMだとしてもこれを嬉々としてやる奴は居ないだろう。本当にアホ。地獄のように痛い。将来的な息子を殺すことを厭わない蛮族のみがやる愚行だ。マジでアホ。

 前述にもあるが私の兄はハッカ油を股間に塗った先駆者の一人であるが、目の前でなぜそれほど苦しんでいたのかよく理解できた。ちなみにその時私は腹抱えて笑ってた。反省もしていないし後悔もしていない。


 他にもギャッツビーやシーブリーズなどの刺激物があるが、私は二度と股間を玩具にはしない。勿論ネタにはするけども。

 改めて思うが、Twitterで提案された「液体窒素」「デスソース」「アルコール」「脱毛剤」などの明らかにやべーヤツ、コイツらも決して塗ることは無い。デスソースは最近近所のド○キで見かけたため可能性を感じてしまったが、絶対に塗らない。


 これを読んだ読者諸君も私と同じ苦痛を味わっては如何だろうか。塗り方によっては私よりよっぽど悲惨になるらしいので、是非お試しあれ。


ハッカ油メイト、お待ちしております

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― 新着の感想 ―
[一言] 貴重な体験談をありがとうございました。
[良い点] 壮絶なバカ(誉め言葉)に乾杯(`・з・)ノU☆Uヽ(・ω・´)
[良い点] 実にクレイジー!!
感想一覧
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