6.遂にお店オープンです!
お店を立ち上げると決めてから半年。やっとお店が出来上がった。
表で売る商品の種類や、価格。裏で取引させるポーションの価格をハルトと決め、ようやく明日からオープンである。
店内の装飾等は、ハルトと初めて行った喫茶店を参考にした。
入口から店内にはいると、目の前にカウンターがありそこで薬などの注文や引き渡しを行う。カウンターの前には椅子と机が並んでおり、壁には本棚を設置した。待っている間もくつろげるように、色々な小説な薬学の本など並べてみたのだ。ガラスは全てではないが、太陽にあたる部分のみステンドガラスにしており私の一番のお気に入りだ。
カウンターの奥へ行くと、まず薬を調合する台があり、そこにはオーブンやコンロも設置されている。
棚には瓶や食器などが並べられていて、いつでも友達を呼べるようにセットしてみた。
(そもそも友達居ないけどね、、、)
奥には扉が二つ。左側の扉の向こうには調合に必要な材料を保管してあり、もう片方は自分が生活するための部屋だ。
また、営業時間については月曜日から金曜日までの夕方までお店を開け、土曜日と日曜日がお休みという形をとり土曜日はポーション作りを行う。土曜日に完成したポーションを日曜日にハルトが引き取りに来てくれるという形だ。
「緊張していますか?」
ハルトはいつも通り笑顔で優しく問いかける。
「うん!嬉しさと不安がぶつかり合ってる!」
私がそういえば、ハルトは「いつでも寂しくなったら我が家に帰ってきても良いですからね。」っと寂しそうな目をして私の頭を撫でながら言うのだ。
(そそそ、そんな子犬みたいな目で見つめられても私は落ちません!ふん!)
「最低でも週に一度は会えるじゃない?それに、もう半年も経つからそろそろハルトにばかり迷惑をかけていられなっ「私としてはレイラならいくらでも迷惑をかけられてもいいんですがね・・・」
そういって私が気づいた時にはハルトの腕の中にいた。
えっと・・・これは、抱きしめられている・・・?
「ハ・・・ハルト?」
えーっとえーっと。
思考が追い付かなくて困っている最中です。
なぜ私はハルトに抱きしめられているのでしょう?
「すみませんっ」ハルトは焦った顔をして、私を離すと「拾った野良猫が手元から離れるとおもったら心配で・・・」
そう・・・だよね。いきなり記憶のない人を拾ったのだから心配するのも無理はない。
しかも今では絶滅危惧種の魔道錬金術師だ。
私としたことが・・・いきなり抱きしめられるものだから、ドキドキしてしまった。
そんな風に思ってはいけないのに。
(彼に怒られてしまう・・・。)
そう思えば、いつものように彼とは誰だろう?という回想に入る。
私は、時々記憶がないのに誰かのことを頭のどこかで思うときがある。
ポーションの作り方を教えてくれた人。今みたいに、私が誰かに対してドキドキしてしまったらきっと嫌がるだろうなと思ってしまう人。誰なのだろう。私は忘れてはいけない人のことを忘れている気がした。
しばらく気まずい空気が流れた後、「いつでも、餌をやりに来てくださいねっ」
なんて、冗談っぽく笑いながら私はこの場を受け流すことにした。
ハルトも「そうですね。」といつもと同じ笑顔で私に向かって言ったのだった。
****
遂にオープン当日である。
昨日のことはあれから考えないようにしている。ハルトも考えないようにしているのか気にしている素振りは見せないので無かったことにしようと心の中で密かに思った。
「今日からですね。暇なときは顔を出すようにしますが、変な奴らには気を付けてくださいね。」
朝食を一緒にとっているとハルトはいつものように優しい笑顔を浮かべて私に言った。
「約半年間ありがとうございました。」
そう言って頭を下げれば、ハルトは私の頭を撫で「では仕事へ行きます。何かあれば連絡してください。」といって職場へと向かった。
この半年間、ハルトの家に居候していたがハルトはいつも忙しそうにしていた。
それもそうだ。一応騎士団長っという立場にあったのだから。
ハルトの家でお世話になった一人ひとりへお礼に調合した薬を渡した。
メイドさんたちは手荒れが酷かったのでささくれなどに効く軟膏を。
庭師の方へは腰が痛いと言っていたので腰痛の薬や偏頭痛に悩まされている方には色々なハーブを調合したハーブティーを渡し挨拶をした後、私は自分の家でもあるお店に足を踏み出した。
お店の近くまで歩いていくと何やら賑わっている声が聞こえた。
声がする方へ行くとなんとそれは自分のお店の前ではないか。
(えぇ!?どうして?)
なぜか?などと考えている暇は一切なかった。
急いで店の中に入り、オープンの準備をしたのちに入口のカギを開ける。
それと同時に老若男女問わずお客さんがたくさん店内へ入ってきたのだ。
「すみません!一列に並んでくださーーい!」
そう言って、カウンターで注文を聞く。
注文を受けている際に聞いた話によると、この町にこういった薬屋は他にはないらしく貴族街に唯一あるが金額が高すぎていけないのだとか。
そのため、平民街に出来ることをしった町民はまだかまだか!と待ち望んでいたそうだ。
「腰が痛くてね・・・腰に効く薬かハーブはないかの?」
「はい!腰痛に効くお薬調合しますね。」
初日から大忙しである。
一から調合するものもあれば、昨日のうちに調合しておいた薬やハーブもバンバン売れる。
あまりの忙しさに、店内でハーブティーを飲めるようにしたが落ち着くまでそのサービスはやめることとした。
お昼になると、ようやく人も落ち着いてきた。
並んでいた最後の一人の対応が終わると同時に、店のドアベルが鳴り「お疲れ様です。」とハルトが顔を見せた。
「どうぞこれを。」
そう言って手渡してきたのは、ホクホクのかぼちゃパイだ。
「わぁあ!ありがとうハルト!!」
私は受け取ると、パイを切ってお皿に盛りつける。
わざわざ今日がオープンということでハルトも仕事を抜けてきてくれたのだろう。
申し訳ないなぁ~と思いつつ、やはり優しいのだなとその優しさがうれしかった。
ハルトの為に調合したハーブティーを入れ、ハルトが座っているテーブルに持っていく。
「お仕事忙しいだろうにありがとう。」
もう一度御礼を言えば、
「お昼に出てきただけなので大丈夫ですよ。」といって、ハーブティーを飲む。
どこまで気が使える騎士なのだろう・・・。女の子たちが黙っていないな・・・そう思わせる格好良さだった。
「売り上げの方はどうですか?やっていけそうですか?」
「売り上げは黒黒黒です!もうそれは凄い黒!!流石に毎日この忙しさなら一人ぐらいお手伝いさんを雇おうかとも思うけど、まだ初日だからわからないなぁ。昨日作り置きしておいたお薬は全部出ちゃったから午後は明日の分の作り置きをしようかなって考えてるよ。」
「そうですか。人が必要になればいつでも相談してください。一応内情を知ってもらわないといけないですし、それこそ信頼できる人がいいと思うので。それにしてもこのハーブティーはおいしいですね。」
そうだった。ポーションのことがあるから簡単に人を雇うといっても雇えないのである。
半年経っても私の記憶は全く戻っていないから、友人もいないわけで・・・
またハルトのお世話になってしまうなぁ・・・
ハルトはお昼を薬屋で過ごした後、「ハーブティーおいしかったです。また来ますね」といって仕事に戻っていった。
「さぁ!午後も頑張ろう!」
1人で気合を入れ午後からのお客さんに備え私は調合をするのだった。
その様子を窓の外から眺めている人物にレイラが横目で気付いていたことを、本人が知るのはちょっと先のこと。
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