4.お店を出すことにしました
「それで、レイラは魔道錬金術師なのですね・・・。困ったことになりました。」
ポーションを調合してから私たちはハルトの書斎にて二人でお話をしていた。
アンティークで揃えられた家具は、とても居心地がいいもので本棚を見ると初めて見るタイトルがたくさん並んでいた。私が読んでもわかるかな?と心がわくわくするのがわかった。新しい知識を取り入れるのは嫌いじゃないみたいだ。
それでも魔道錬金術師という言葉にはまったく聞き覚えが無いのである。
「まず魔道錬金術師って何?」
「えぇ~っと魔道錬金術師っというのは魔法と錬金術を扱える人のことを指します。先ほどレイラは記憶が無くても魔法が使えるのか?っという質問をしていましたが、基本的には記憶が関係します。多分レイラの場合身体が覚えていたという記憶の残り方だったのでそれだけレイラが鍛錬を積んだのだと思います・・・。それにレイラは気づいていないのかもしれませんがバケツの中の水を浮かべていたり、ポーションを作る際に魔力を込めていたりヒールを唱えていましたよね?まぁ正直このポーションを作れるという時点であなたは魔道錬金術師です・・・本当に面倒なことになりました。まじで面倒臭い。」
最後の言葉だけは本当に今まで優しかったハルトの言葉なのかと、自分の耳を疑ってしまった。この人さらっとひどいこと言ったと思うの。面倒くさいとかさ。今まで笑顔でずっと優しく話してくれていたのにさ!いきなりマジで面倒臭いとかひどすぎると思わない?
「そこは素直にすごいね!って褒めてくれてもいいのにっ」
「素直に凄いとは思っていますが、その後の対応を考えると幾分面倒くさいんですよ。いいですか?魔道錬金術師はほぼ絶滅したといわれています。つまり、全くいないということです。例えば国中にレイラの存在が知れ渡り隣国に知られたらどうなると思いますか?力尽くでもレイラを欲しがってきますよ。レイラをめぐって戦争が始まるかもしれません・・・。それぐらい貴重な人材なのです。基本的に錬金術や魔法適正というものは血で決まります。親が錬金術を扱えるなら、その子供も錬金術を使えるということです。つまり・・・国同士の戦いに巻き込まれ、挙句の果てにそこら辺の貴族から結婚しろと求婚の嵐になります・・・。」
・・・。
それは困る・・・。何が困るか明確な答えはないが、結婚は絶対に無理だ!と心の中の私が叫んでいる。しかも戦争になるとか・・・そんな大きいことに巻き込まれるのもごめんである・・・。
ど、どうしよう・・・
昔は、ポーションを作れる人はいっぱいいたし、現に私に教えてくれた人もポーションを作っていた。っとふいに思うが、昔とはいったいどのくらい前なのか、私に教えてくれた人は誰だったのかは前回同様思い出せない。
「レイラはどうしたいですか?」
「私は・・・」どうしたいんだろう。そう考えた時、昔誰かに言われた言葉を思い出した。
(君は、薬屋さんでも開いたらどうだい?ポーションを作るのが好きだし、苦しむ人を助けるのが好きだろう?僕は凄く君にあっていると思うよ。)
「薬屋さんを出来れば立ち上げたいなって思います。」
「なるほど・・・そう・・・ですね・・・王国にはばれてしまいますが、それでも良いのですか?」
「うん!それでも・・・お店を持つことが私の夢だった気がするので!!」
人に言われた言葉をそのまま自分の夢にしてしまう過去の私はどうなのだろう?とも考えさせられるが、自分もそうなりたいと心から思っていたという確信が確かにあった。
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あれから日がたち、店を構えるにあたってハルトから提案というかお約束を言われた。
一つ、店頭では完璧なポーションは売らない。
ほかのお店でも買えるような塗り薬や風邪薬など錬金術を使わなくても作れるもののみ。
二つ、完璧なポーションは王国騎士団が直接取引をしてくれる。
店頭でポーションを販売しなくても収入には困らず、ポーションの出どころがわからないようにするため。
三つ、私が魔道錬金術師だということは、国王により機密事項になるため口外しないこと。
以上の三つがお約束事として取り決められた。
私はこの提案に対して、ポーションを普通に販売できないのはいささか不満ではあるが、
国が直接取引をしてくれるというのでポーションが作れなくなるわけでもないし、本数は定められていないため、毎週末に出来上がった分のみ納品という出来高制なのはうれしい所である。
ポーションの在庫がある程度安定したら、騎士団より販売等が検討されることになっており、戦争などがあった際は無料で支給されるそうだ。
三つ目のお約束に関しては、私も願ったりかなったりで現国王はハルト曰く、話の分かるとてもいい王様だということだ。常に民のことを一番に考えており妻と娘をちゃんと愛しているそうだ。私のことも、ハルトから報告をしたらしいが表立って何か国王から紹介状などが来るわけでもなく、アトリエが出来た後にお忍びで一度会ってお話がしたいというハルトを通しての簡単なものだった。
また、お店を開くということについても軍資金は国の方で持ってくれるらしく、表立っては公表できないがハルトの管理内でお店を経営することになっているのだ。
正直、ハルトには世話になりっぱなして返しても返すことのできない量の恩でオンパレードである。
つまり私がこうして綺麗な服を着れているのも、おいしいごはんを毎日食べられているのもポーションを作れるのも全てハルトのおかげである。
お店を構えたらハルトの家からは出ていこうとは思っているが、そのお店も裏ではハルトの管理にある為それはある意味独立とは呼べないのではないだろうかと頭を悩ませる。
(ある程度の売り上げを上げればハルトにも何かお返しが出来るだろうか・・・)
私は一生かかっても返せないだろう恩に頭を抱えさせられていた。