2.私の気持ちはダダ漏れのようです
一通りの検査や質問を終え本部から団長と出ると、立派な馬車が私たちを待っていた。
「えっと・・・この馬車に乗っていくんですか?」
「そうですね。私の家の馬車なので大丈夫ではありますが・・・何かありますか?」
「できれば歩いていきたいなと・・・町の様子も見てみたいですし!!!」
少しわがまますぎたか?と思ったが、団長は優しく「わかりました」と答えてくれた。
しばらく二人で並んで街中を歩いていれば、様々なところから話声が聞こえてくる。主な内容は、やはり吸血鬼のことばかりだ。そんなに有名なのだろうか?
「団長、聞きたいことがあるんですが」
「ハルトでいいですよ。」
「え?」
「私の名前はハルト・バートンリッヒといいます。そういえば自己紹介もまだでしたね。今年で25歳になりました。バートンリッヒ侯爵家の長男であり、後継ぎでもあり、王国騎士団長でもあります。よろしくお願いしますね。」
そう言って、こちらを見つめてきた。
あまりよく顔を見なかったが、ちゃんと正面から見るとずいぶん整った顔立ちをしていた。一般世間の言うイケメンとはこの人を指すのだろう。私とこの人では身長差がありすぎるので、私が見上げる形になる。正直首が痛くなりそうである。
公爵家であり後継ぎであり、王国騎士団長でもあるって・・・それとんでもないキャリアだな・・・この人を敵に回すとこの国に住んでいられなくなりそうなレベルの権力者であった・・・しかも25歳で騎士団長に就任されるってめちゃくちゃすごいことじゃないの・・・?
「そんな、恐れ多い方に名前で呼ぶことが許されるんですか?死刑になったりしません??」
「はははっ大丈夫ですよ。猫を拾ったようなものなので、ハルトで構いません。様もいらないので是非お気を使わずに接してください。」
猫?ん?人間ですらなくなったような気がするのは気のせいだろうか?
まぁ深いことを考えるのはやめることにする。私の心は寛大だからである!えっへん!
侯爵家の長男と自分で言ったときは、相当厳しい人なのかとも思ったが、案外私と同じぐらい心が広いようだ。
「じゃあ、ハルト。今巷で人気の吸血鬼のことが知りたいです。」
ハルト自信、気を使うなといったものの、特に異性に対して名前で呼ぶことに何も抵抗を感じていないレイラに対して、あっさりと呼ばれたハルトの心の中は意外にもドキドキしていたことをレイラは知らないのである。
「では、立ち話もなんですし喫茶店にでも入りましょうか。」
そう言って、ハルトの後をついていけばとってもオシャレな喫茶店に入っていった。
「巷で人気のある喫茶店らしいですよ。」といって入った喫茶店は、窓ガラスはステンドガラスで作られており、色々な色が織りなす店内は幻想的で思わず言葉を忘れてしまうほどだった。
(確かに、人気が出てもおかしくないわ・・・うんうん)
「さて、レイラは何を頼みますか?」
そう言って、メニューをもらう。
チョコケーキもおいしそうだし、そのモンブランも捨てがたい。
「ん~~~~」
悩んでいればいつの間にかハルトは店員を呼んで、「チョコケーキとモンブランを一つずつ、それと、コーヒーを頂けますか?」と注文したのだ。
「さっきもだけど、どうして私の食べたいものがわかったの?」
「あぁ気づいていなかったんですね。レイラは心の声が口から洩れていますよ。」
全くもって知らなかった。
つまりおっぱいの時も口に出ていたのか・・・わかったとたんイルミナがあんなに腹を抱えて笑っていたことにも納得がいく。穴があれば入りたいほど私は恥ずかしく思った。
「私は可愛らしいと思いますがね?」
お世辞であると確信はしているが、この人は相当女たらしなのでは無いかと思った。
そんな笑顔で可愛いとか言われたら誰でも恋に落ちてしまうのかと思うほどだ。
(まぁ私の心は強いからこんなことじゃ落ちないけどね!!!)
「さて、話はずれてしまいましたが吸血鬼のことでしたね。あれは、1000年前のことです。レイラが寝ていたあの城には吸血鬼が住んでいたとされているのですよ。まぁ今となっては噂話ですが実際は噂ではなく、ちゃんと実在していました。」
「どうして実在していたとわかるんですか?」
1000年も昔に存在していた人のことを、いや人といっていいかもわからないが・・・
吸血鬼がいたということをここまで断言するのだ。何かしら理由があるんだろう。
「私の祖先がその吸血鬼を討伐したからですよ。」
「そ・・・それは」
「驚くのも無理はありません。代々我がバートンリッヒ家は吸血鬼を退治するためにいます。吸血鬼を倒した功績が認められて今の地位につきました。ですので、まぎれもない事実なのです。上位貴族たちのほとんどはそのことを知っていますが、噂や伝説だと思っている人の方が多いでしょう。」
ハルトは詳しく吸血鬼のことについて話してくれた。今世間を賑わしている吸血鬼。
当時、吸血鬼は倒される時に言ったセリフが世の女性を盛り上げ、今では本にもなっているらしい。「俺は1000年後に転生し最愛の人を迎えに行く。」このくっさいセリフが世の女性を虜にするだなんてきっと吸血鬼は思ってもいなかったに違いない・・・
そして、吸血鬼は灰になった。
それが本当なのかはわからないが、ハルトはそうだったのだろうと信じていた。
ただ最愛の人という言葉がやけに心に引っかかった。その最愛の人とは誰なのか?とハルトにも聞いてみたが、その正体は1000年もの間誰にも解明されていないらしい。
ハルト曰く、1000年経っても迎えに行くと発言しているということは、この女性もきっと吸血鬼なのだろうという見解だった。それ故に、城で寝ていた私が最愛の女性なのではという意見も出たそうだが、検査の結果によりただの人間だと判断されその仮説も消えたらしい。
謎な部分が多いからこそ人気がある小説として世に出回り、吸血鬼は伝説になった。っということだった。
私は店員さんが運んできてくれた、チョコケーキとモンブランを平らげハルトに御礼を言って店をでた。
そういえばハルトは食べていなかったが、甘いものが嫌いなのだろうか?
「ハルトは、甘いものが嫌い?」
「嫌いではありませんが好んでは食べません。」
ふ~~ん。嫌いなのに、人気の喫茶店に連れてきてくれるなんて優しい団長なんだな~と思い「ありがとうございます!」ともう一度御礼を言いハルトの屋敷へと向かった。