表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

山ン本怪談百物語

トンネルに潜むもの

作者: 山ン本

百物語十八話になります


一一二九の怪談百物語↓


https://ncode.syosetu.com/s8993f/


感想やご意見もお待ちしております!


 学生時代、ドライブに行った時の話だ。


 友達が免許を取ったばかりで、練習のためにドライブへ付き合うことになった。時間は夜の10時過ぎだったかな。次の日は大学も休みだったから、朝まで近くの山道をのんびり走ることにした。


 自動販売機で缶コーヒーを買ったり、神社を見回ったりしているうちに、時間は深夜の1時になっていた。


 「悪い、ちょっと休憩してもいいか?」


 友達が仮眠をとりたいと言い出したため、トンネルの近くにあった潰れた焼肉屋の駐車場で休むことにした。


 「あんなところにトンネルなんてあったのか…」


 携帯電話をいじりながら休憩する俺と仮眠中の友達。友達が仮眠を終えた後、コンビニで夜食を買う予定だった。


 「ふぅ………あれっ?」


 トンネルの方へふと視線を移してみると、トンネルの中から小さな人影がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


 「こっちに来る…」


 車の光に照らされて、人影の正体がだんだんわかってきた。トンネルの中から現れたのは、太った中年の女性だった。女性は俺たちの車へ近づくと、申し訳なさそうな顔で窓を軽く叩いた。慌てて窓を開けると…


 「すいません。私たち帰れなくなったんですよ。乗せてもらってもよろしいですか?」


 女性はそういうと、俺に向かって深く頭を下げた。


 「あぁ、いいですよ」


 悪い人ではないと感じた俺は、咄嗟にそう答えた。すると、女性は嬉しそうな笑顔を浮かべて、車の後部座席に乗り込んできた。俺は眠っている友達を起こすと、後部座席の女性について話し始めた。


 「なんだよ…もう1時間経ったのか…?」


 「いや、この女の人を乗せてやってくれ。帰れなくなったらしいから…」


 後部座席の女性をルームミラーで確認しながら、友達に今までのことを説明する。女性はニコニコと笑いながら、車が動き出すのを待っている。しかし…


 「何言ってんだ?女の人なんてどこに座ってんだよ?」


 友達は後部座席を見つめながら、不思議そうな顔をしている。


 「いや…だから女の人が…あれっ?」


 俺は慌てて後部座席へ振り返った。そこに女性の姿はなく、何もない空間だけが広がっていた。


 「お前、酒でも飲んだのか?」


 「いや…さっきまで…おかしいな…」


 誰もいない後部座席を確認しようとした瞬間、トンネルの方から叫び声のようなものが聞こえてくることに気がついた。俺たちは慌ててトンネルを見た。その時…


 




 「乗せてくれぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!」






 10人、20人。いや、30人以上だったな。トンネルの中からたくさんの人間が現れたと思ったら、叫び声をあげて車に向かってきたんだ。それもすごい速さで…


 「な、何なんだあいつら!?」


 「わかんねぇ…わかんねぇよぉ…!?」


 急いで車を動かそうとしたが、トンネルから現れた人たちはすぐに車を囲い、中にいる俺たちを凄まじい目で睨みつけてきた。






 「乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ乗せろ」






 車全体を激しく叩きながら、狂ったように叫び続ける人たち。その人たちの顔を見た瞬間、俺たちは大声で悲鳴をあげた。


 「うわぁああああああっ!?」


 普通の状態の人は、誰一人としていなかった。頭が潰れた人、全身が焼き焦げた人、目玉が飛び出ている人…


 俺たちは思った。この人たちは生きてる人間ではない。


 車を叩く音と叫び声が車内に響き渡る中、俺たちは眠るように気を失った。






 「おい、兄ちゃんたち!こんなところで寝ちゃだめだよ!」


 俺たちが目を覚ましたのは、次の日の朝8時過ぎ。パトロール中の警察官に声をかけられた俺たちは、今までの出来事を説明しようとしたが、信じてもらえるはずがないと思い話すことをやめた。


 「すいませんでした。すぐに離れますので…」


 警察官に仮眠をとっていたことを伝えると、友達が駐車場から離れるためにエンジンをかけた。


 「人の土地なんだから勝手に入っちゃだめだよ。しかし…この車すごいねぇ…この手型は全部自分たちでやったの?こんなデザインの車見たことないよ!」


 俺たちは急いで車の外へ出ると、乗っていた車を見て愕然とした。車全体に血のついた手形が大量に残されており、昨日の出来事が夢ではなかったことを確信してしまったからである。


 これは後でわかったことだが、あのトンネルは『C村トンネル』と呼ばれており、今から30年近く前に衝突事故を起こした観光バスがトンネルの中で炎上する大事故が起こっていた。


 観光バスに乗っていた運転手と乗客43人が死亡。トンネルの近くには慰霊碑が建てられており、亡くなられた人たちの魂を慰め続けている。


 あのトンネルから現れたもの。


 帰りたくても帰れない亡者の群れに、俺たちは遭遇してしまったのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ