ただ愛情表現をするためだけに悪役令嬢に婚約破棄を突きつける殿下
「リディア!! お前との婚約を破棄する!!」
「嫌です!!」
「なにッ!?」
「絶対に嫌!! お断りします!! NO!! そちらのペトラさまと結婚なさるって言うのでしょう!?」
「すごい拒否っぷりだな!? お前はノーと言える令嬢かッ!! だがそうだ!! 私はペトラと結婚する!! 理由はお前が陰湿にペトラをいじめたからだ!!」
「それは殿下への愛情からです!! 人の婚約者にすり寄って来る泥棒猫に良い感情なんて抱けるわけがないでしょう!?」
「なんだとッ!! そうなのか!?」
「大体!! いじめたといっても教科書に落書きをしたり!! お茶会の時にペトラさまの紅茶だけ麦茶にすり替えたり!! そんな程度ですよ!?」
「なんだその可愛いいじめ!! い、いや騙されんぞ!! 落書きや麦茶で人は思い悩み自殺することもあるんだ!!」
「教科書の落書き内容は『生きて!』、『また明日も学園来てね!』、『ステキ!』、『愛され令嬢!』、『わんこそば!』ですよ!! 麦茶に関しては確かに酷いと思ったので謝罪の末に最高級茶葉をお贈りしました!!」
「わんこそば!? それよりなんだそのポジティブワードばかりの落書きは!! 麦茶の件も単なる仲間内の戯れなんじゃないのか!? お前ら実は仲良いんだろ!!」
「そんなはずがありません!! 泥棒猫ですよ!? 不倶戴天の敵ですッ!! だいたい側室にっていうならまだしも破棄ってなんですか破棄って!! 私この大衆のなか大声で泣きますよ!? 殿下にいじめられたって!!」
「それはやめろ!! 泣くのは卑怯だぞ!! 私が悪者みたいじゃないか!!」
「では婚約破棄を破棄してください!! すでに号泣まで秒読みに入ってますからね!!」
「待て!! 先ほどから黙っているペトラにも意見を聞く!! ペトラ!! 何とか言ってやったらどうだ!!」
「……あの、お二人とも物凄くテンション高いですね。私ついていけないというか。お似合いだと思います」
「ほらみたことか!! ペトラもお似合いだって言ってるじゃないか!!」
「殿下はアホですか!! ペトラさまは私と結婚しろって言ってるんですよ!! 振られたことを自覚してください!! 私がなぐさめてあげますから!!」
「むッ!! 私が振られただと!? なぐさめるってどういう風にだ!?」
「こんな公の場で殿下の性癖を暴露してもいいんですか!! 会場もペトラさまもドン引きすること請け合いですよ!! こんな殿下の面倒を見られるのは私だけなんですからね!!」
「むう!! やはり私とリディアの愛は婚約破棄程度では引き裂けないと言うことか!! 恐るべき愛だな!! そういう事なら仕方がない!! リディアとの婚約破棄を破棄する!! ペトラ、巻き込んですまなかった!!」
「いえ……先ほどから周りの貴族の方々も、『また始まった』『殿下とリディア様は時々ああやって愛情を確認しあうからな』『政治面では優秀なのにお互いが絡むとアホになるから』って言ってます。第一、殿下から事前に茶番だって知らされてますし……。未練の欠片もありませんので、どうぞお幸せに」