いつだって、どこでだって、母は何でも知っている☆
いつの間にか暗くなってきた外。今は何時なんだろう。だけれど何もする気力がわかなくて、そして考えると思い出も、想いもあまりに多すぎて……いつの間にか夕日が挿す部屋に一人でいるとチャイムの音が鳴る。
「ポンピーン♪ ちわーっす宅配でーっす、判子かサインか魔法印お願いします」
「あ、はい……?」
極普通の、大柄だけど生真面目そうな配達員さんが荷物を運び込む。俺、疲れてるのかな……なんか幻聴が入ってた気が? ていうかこのおっさんって、今自分でポンピンって言わなかったか!?
「はい、たしかに」
「……どうも」
何事もなく帰っていく宅配ドライバーと、走り去る車。そして玄関には見知らぬ巨大な荷物。先日、母が亡くなった――その突然のことに葬儀に追われ、全部終わって疲れていた僕に届いた荷物は……その母からのものだった。
「なんだ、これ」
また、何か大量の差し入れを送ってくれていたのか、もしかしたら自分で何かを感じていてビデオレターとかだったらと、焦り慌てながらなんだか妙に頑丈に梱包された巨大な箱を汗だくになりなってやっと開けると、中身は――ドラゴンの頭だった。
「俺、おかしくなってる!? っ、脳外科……じゃなくて精神科!」
だけど急に影像とともに音声が流れ出す、その声は懐かしい母の声……と全く違う妙にアニメ声なハイテンションな喋り!?
「やっほーい、将太朗、元気ー? うん、母ちゃんは死んじゃった(テヘペロ♪)」
「な、な、な、なにこれ!?」
その影像はピンク髪のツインテール美少女で、超ミニスカートにニーソで可愛く頭コツンとかしてる、ちょっと痛そうな……だけれど、どことなく母の面影がある美少女。
そう、顔とかではなく表情と言うか、何気ない身振り手振りのおばちゃん臭さと、微かな仕草には見覚えがあるけれど……全く完璧に似ても似つかない美少女が、わざとらしい横ピースで可愛さをあざとくアピってる!
「いやいや、あんたの部屋に積んであったラノベ読んでたら、なんか異世界転生? いやー、びっくり、びっくり。そうそう、この姿はあんたのベッドの下の箱の中に隠してあった美少女が2次元何とかとかいう本の可愛い子にしてみたのよ」
「なにしてんのーーーー! って、どうりで見覚えがあったよーー!?」
悲報、母親が異世界転生して触手陵辱系のヒロインの姿になっていた件! って、キャラ変わりすぎ!! っていうかベッドの下の金庫どうやって開けちゃったのーーーー!!!!
「それでね、急だったから将太朗にも迷惑かけたかなってね。ほら、あんた疲れたら御飯食べないでしょう。だからね、心配だから……これが滋養強壮に良いって聞いたからちゃんと食べるんだよ、ドラゴンヘッド……の煮付け」
「食えるかーーーーーー! ってこれ食料だったの、この血塗れっぽいの煮付けだったの!?」
だけど理解ってしまう。その言葉の端々から本当に母であることが、なんか「☆」とか言ってる痛い娘が本当に母の転生なのだと……おい、享年87歳!!
「将太朗。母ちゃんは異世界で元気だから心配しないでね、あんたは母ちゃんより絶対に長生きするんだよ……」
「母さん……パンツ見えてるよ! っていい話風に語るのに、M字開脚はやめてえええ! アングル下すぎいいいいい、脚を閉じてええええっ!!」
何故、どうして息子が隠していた内緒な本のヒロインの姿で転生しちゃうの、何で縞パンまで完全再現なの! それが実の母親って、何この凄まじい居た堪れなさは!?
「うん、それ食べたら長寿にも良いらしいからね。母ちゃん頑張って獲ってきたんだよ」
「強いられてるーーーー、ってこれ本当に食い物なの!? 何だかその長寿がヤバい気しかしないよ!!」
恨めしげに虚空を睨むドラゴンと目が合う。うん、ごめん、犯人はうちの母らしい。
「ポンピーン♪ ちわーっす宅配でーっす、判子かサインか呪印をお願いしまーす」
「何処の誰が荷物の受け取りに呪っちゃうの! って、何で気軽に異世界から配達してるんですか」
「いやいや、このご時世ですから」
「今、どんなご時世なの! 俺が知らない間にご時世変わっちゃいました!?」
そして、宛名には「母より☆」と書かれた荷物がまた……そういえば毎回食べきれないほど食べ物とか送ってくれる仕送り魔だったんだけど……一体、どんだけドラゴンヘッド送ったの!? っていうか何で異世界でドラゴン乱獲してんの!!
母さん。ずっとずっと、ありがとう。だからさ……ドラゴンヘッドの煮付けもう良いから! って、唐揚げと佃煮だった!! って言うか、毎回毎回息子が隠してた秘密的な衣装で登場しないでーー、ってか真紅のボンテージだけはマジで勘弁してくださーーい!!!!!!!!
拝啓、母ちゃん……異世界で息子が隠してた本の衣装をコンプするのだけやめてください。息子への手紙にセーラースク水で現れるのはやめてええええええーーーー(泣)
うん、この手紙届けられます? えっ、メール便で届くの、安っ! って……俺、宅配ドライバーに転職しようかな……母親が童貞を殺す服に手を出すのを食い止めるために!! ちょ、何で異世界で息子の秘密な趣味を全開で暴露して回ってんのおおおおおーーーーっ!
私文 心よりのご冥福を。