対抗心と親切心は複雑に混じり合う
既に日も暮れかけた中、街の城壁を見つけた三葉は、思わず声を上げた。
「わぁあ……、街だぁ……」
安堵と感動の入り混じった声は、確実に涙を含んでいた。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
城門に近づいていくと、門番がこちらへ向けて腕を上げるのが見えた。
それはどうやら馬を降りろという仕草だったらしく、ロルフは速度を落としたウーヴェからひらりと降り、そのまま並走するようにウーヴェを引いて門まで寄って行った。
それを迎えたのは門番と言っても長槍を一本携えた軽装の男だった。
茶と金の間のような短髪で、ロルフと同じかそれより若く見える年頃の男だった。
「お、ロルフか」
「ようテッド」
「登録証は無くしてねえだろうな?」
「はいはい」
ロルフは彼とは顔見知りだったらしい。軽く挨拶をしながら襟元から鎖を引き出したロルフは、その先に付いていた金属プレートを相手に見せていた。それは、いわゆるドッグタグと呼ばれる類いの装飾品のように見えた。
「相変わらず白銀なのかよ」
「特に困らねぇからな」
タグを見ながら書類に何かを書き込んだ門番が、ウーヴェに乗ったままの三葉へちらりと視線をやる。
「で、そっちは?」
「ああ、拾った。登録証明はギルドでする予定だ」
「そうか。……あんた、名前と年齢と、街に入る理由は?」
勝手知ったる様子で会話をしながらロルフが門番へ銀貨を2枚渡し、受け取った門番が三葉の方へ顔を向けた。
こんなふうに人を拾ってくる事が珍しくないのだろうか。
「……あ、高いところから失礼します。……ミツバ・タカノリ、47歳です。街へは、……就職先を探しにやって参りました。よろしくお願いします」
突然話を振られてぴゃっと背筋を伸ばした三葉だったが、自己紹介と挨拶は考える前にするっと口から出た。
ぺこりと頭を下げてお辞儀をすると、門番の彼が「おお……」と声を漏らすのが聞こえた。
「ミツバ……タカヌリ?」
「タカノリです」
「タカオリ?」
「ノ、です。タカ、ノ、リ」
「……タカ…ノー、ルィ……」
名前を訂正するうちにヌヌヌ、と眉を寄せた門番が、真剣な顔で書類に書き込む。
年齢を書く時も、3度ほど確認された。どこからどう見ても47歳だと思うのだが、外国人には日本人が童顔に見えるとかいう現象だろうか。
「OK。良い就職先が見つからなかったら、俺に相談に来ても良いよ。街には知り合いが多いからね」
自分の胸を親指で指しながらパチンと片目を閉じて笑う門番に気圧され気味にお礼を言って、門をくぐらせてもらった。
「……ミツバ」
「はい、どうしたんです?」
大通りをしばらく歩いてから声をかけてきたロルフがあまりに真剣な顔なので、三葉も少し緊張しながら首を傾げた。
「俺もここには知り合いが多いからな」
間。
「……そうなんですね?すごいです?」
取るべき反応が分からなくて疑問形のまま頷いた三葉に、ロルフがもう一歩グイと近づいて来る。
「あんたが仕事先見つかるまでくらい、ちゃんと面倒見てやるからな?」
「えっ、……あっ、……ありがとうございます……」
眉間を寄せて真剣な顔で睨み上げてくる目の前の男が何故かテッドの言葉に対抗しているのだと気づき、三葉は思わず笑いそうになるのを堪えてコクコクと頷いた。
随分親しそうだったし、門番の彼と街の中にいる知り合いの数で張り合ったりしているのだろうか。
頼もしい青年が、年相応に可愛く見えてしまった。
ブックマーク・評価・応援ありがとうございます




