1、機械人形オートマタ
一部文章を修正しております。
オートマタ、それは人の形を模した魔法機械人形のことである。
わたしの名前はルゴルオール・イマイゼン。
わたしの家系は代々オートマタ職人をしており、幼いころからずっと父の背中を見ながら育ってきた。
わたしたち家族は一所に定住することはなく、各地を転々としながら生活をしていた。
長くても一年、短い時などはひと月もしないうちに街を離れることもしばしばあった。
そんなわたしに年の近しい友達ができるわけもなく、
幼いころ母親をなくしたわたしにとって、オートマタは唯一の遊び相手であり友達でもあった。
父親はわたしのことなどまるで眼中にないようで、なにかに憑りつかれた様に朝から晩までいつもオートマタばかりいじっていた。
正直、父親とは親子らしい会話をした記憶があまりない。
当然と言えば当然なのだが、わたしは父親があまり好きではなかった。
そんなわたしも父の後を継ぐように自然とオートマタ職人になっていた。
まぁ他にやりたいことがなかったというのが大きな理由かもしれない。
ある時一度だけ、父親になんの為にオートマタを作っているのか聞いたことがある。
父曰く、
その内に魂を宿し、生きたオートマタを作り出す。
それがオートマタの究極の目的であり、想像主たる神への挑戦なのだとか。
当時の自分には何を言っているのかさっぱり理解できなかったのだが、
こうして長い間オートマタに携わっていたおかげか、父の言っていることがなんとなくだが理解出来るようになっていた。
そんな父も旅先で病に倒れ、そのまま帰らぬ人になってしまった。
それからわたしは父親と同じように各地を転々としながら今もなおオートマタを作り続けている。
わたしの仕事は街を巡りながら、オートマタの技術を生かした修理工をしている。
それ以外にも時間を見つけてはオートマタの芝居や自動演奏などで人々を楽しませている。
芝居をしていると、時折、あまりにも精巧な出来栄えに是非売ってくれと言う人もいるが、わたしは滅多にオートマタを売ることはない。
なぜならオートマタはその精密さ故、一体作るのに数年かかる。
さらには動力に貴重な魔鉱石を使うため、数を作ることが出来ないからだ。
一番の理由はわたしが丹精込めて作った我が子のようなオートマタを誰かも分からない他人に譲るというのがどうしても出来なかった。
「この街は相変わらず活気があるな」
わたしがこのヴェローナにやってきたのは何年ぶりだろうか。
こんなに大勢の人を見るのは本当に久しぶりだった。
近々、収穫祭があるから、なおの事だろう。
わたしがこのヴェローナに初めて訪れたのはもう30年以上も昔の話だ。
城門から少し歩いた場所に、父によく連れて来てもらった店が今もある。
ここヴェローナに来た時には必ずと言っていい程、立ち寄るなじみの店だ。
”気まぐれな黒猫亭”
この辺りでは珍しく木造3階建ての立派な建物で、1階は食事処、2階、3階は宿屋になっている。
ここで出す燻製料理が名物で、これを目当てに足しげく通う常連も多いと聞く。
店内に入るとすでに殆どの席が埋まっていたが、運よく待たずに席に着くことが出来た。
「注文いいかい?」
「はい、ちょっと待ってくださいね」
給仕係の女性は両手に空いたグラスやお皿を抱え、せわしなく片づけをしている。
「ごめんなさい、お待たせしました。
ご注文をどうぞ」
「とりあえず先に冷えたエールをもらおうかな」
「はい、ありがとうございます。
おひとつでよろしいですか?」
「いや、二つ頼むよ」
「二つですね、かしこまりました」
「喉が渇いているから早く頼むよ」
「はい、わかりました」
「――おい、そこの姉ちゃん。こっちにもエール頼むよ」
「はーーーい! ちょっと待ってね!
いまお持ちしますので、少々お待ちくださいね」
給仕係の女性は笑顔で会釈すると、急いで調理場へと戻っていった。
「ルゴル、私は飲まないわよ」
「少しくらいいいじゃないか」
「もう、しょうがないわね」
わたしの隣にいるのは、クラリカ・イマイゼン。
彼女はこんなわたしと一緒にいてくれる稀有な女性だ。
彼女とは幼いころからの知り合いで父が亡くなった後、わたしは彼女と結婚した。
オートマタ以外に興味の無かったわたしが唯一心惹かれた女性だ。
この街には娘も一緒に来ているのだが、今は別行動をしている。
初めて訪れた王都を見てまわると言って、一人でどこかに行ってしまった。
落ち着きがないのは誰に似たのやら。
店内を見回していると、程なくして頼んでいたエールが席に届く。
「はい、エール二つお待たせしました」
「待ってました。よし、じゃ乾杯しよう。
あっ君、追加注文いいかな。チーズ、卵、干し肉の燻製を一皿ずつ頼むよ」
「チーズ、卵、干し肉の燻製ですね。かしこまりました」
「クラリカ、君とまたここに来れたことを感謝して、乾杯」
「乾杯」
並々と入ったエールを一気に流し込んでいく。
よく冷えたエールは渇いた喉を瞬く間に潤してくれる。
それからしばらく燻製をつまみに、ほろ酔い気分でエールを呑んでいると、
隣に座っていた男たちの話が聞こえてきた。
「なあ、お前、あの話知っているか?」
「なんだよ、あの話って」
「お前知らないのか?
どんな願いも叶えてくれるっていうあの話だよ」
「あぁ、そう言えばそんな事いっている奴がいたな。
お前そんな話信じているのか?
どうせそんなの嘘に決まってるだろ?」
「それがどうもそうじゃないらしいんだよ」
「はっ、馬鹿馬鹿しい。それが本当なら俺も願い叶えて欲しいぜ」
「お前ならどんな願いをするんだ?」
「そうだな、俺だったら金だな、金。大金持ちになってこんな生活とはとっととおさらばしたいぜ」
「そりゃ、違いない。
――エールもう一杯おかわり頼むよ!」
「はいよ!」
男はご機嫌そうに空のビンをくるくる回すと、さらに話を続けた。
「それで、どこでその願いとやらをを叶えてくれるんだ?」
「詳しくは俺も知らねぇ。ただこのヴェローナの何処かに願いを叶えてくれる店があるらしい。
えっとなんていったっけかな」
「なんだかますます胡散臭い話だな、おい」
「えーっと、あれだ、あれ。もうちょっとで思い出しそうなんだけどな。
――思い出した! 願叶堂だ」
「ガンキョウドウ? 変な名前だな」
どんな願いも叶えてくれる店、願叶堂か……。
「――ねぇ、ルゴル聞いてる?」
「んあぁ、ごめんごめん。で、なんの話だっけ?」
「明日の予定よ」
「その話か。明日は修理の依頼が何件か入っているから、しばらくそれにかかりっきりだよ」
「そうなのね、残念。二人で王都見物しようと思っていたのに」
「仕事が終わってからゆっくり見てまわろう。
今回はしばらくここに滞在する予定だから」
「本当に? 約束よ」
「あぁ、約束する。
それじゃそろそろ店を出ようか」
店内が一段と混んできたので、さっさとお会計を済ませ店を後にした。
「もう、そろそろ秋だな」
外に出ると吹き抜ける風が心地よく、お酒で火照った身体を適度に冷ましてくれる。
既に日は沈み、空には大きな月が浮かんでいた。




