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3、


キャラバン隊は城門を通り抜けると中央の広場で停車した。


「やれやれ、やっとついたな。


ずっと固い板の上に座っていたせいで、尻が痛くてしょうがないぜ」


リエルは荷馬車から飛び降りると凝り固まった身体をほぐす様に大きく伸びをし始めた。



「ルフィア、リエル、お疲れさん」


「あっ、グレンさん、お世話になりました」


「王都でいい仕事見つかると良いな」


「はい」


「ところでお前たち、今日泊まるところあるのか?」


「ラクスでお世話になっていた方の知り合いがヴェローナに住んでいるので、しばらくはそこに」


「そうか。まぁなにか困ったことがあったらギルドに顔だしな。


仕事がなけりゃ俺は大概そこにいるからよ」



「――おーい! グレン、早く飲みに行くぞっ!」


「あぁ! わかったよ! んじゃ、そういう訳だから俺行くわ」


「はい、色々ありがとうございました」


グレンは僕の言葉に手を一度振って答えると、そのまま仲間たちの後を追うように人ごみに消えていった。


「じゃ、俺たちも行こうぜ」


「うん」


僕とリエルはキャラバン隊にお礼を言った後、一先ず西地区に向うことにした。


王都ヴェローナは大きく東西南北にエリアが分かれており、今いる南地区は主に飲食店、宿屋、商店などが多く立ち並んでいる。


その為、この時間になるとこの辺り一帯は酒に酔った男たちの陽気な笑い声と吟遊詩人の楽器の音色に合わせた美しい歌声で溢れかえっていた。


そんな賑やかな風景を横目に僕たちは目的地を目指して歩いていた。


「道はこっちで合ってるのか?」


「うん、たぶんね。そこの角を曲がれば大通りに出ると思うよ」


この街には各エリアを分けるように五つの大通りがあり、それぞれが王城前の広場に繋がっている。


西地区はその大通りを挟んだ向こう側だ。


もうすっかり日も暮れているというのに荷馬車の往来が途切れることはない。

僕たちは頻繁に行き交う馬車を避けながら、なんとか向こう側まで渡った。


西地区は南地区とは違って一般市民が暮らしている居住区で、ぽつぽつと街灯が立ってはいるものの、先ほどと比べ薄暗く人通りもまばらであった。



ニーナさんに書いてもらった地図を頼りに目的の場所を探し歩いていると、時折、家の中から子供たちの笑い声が聞こえてきた。



みんな元気かな。



笑い声にふと孤児院の事を思い出す。


まだ孤児院を出てから一週間も経っていないのに、なんだか無性に寂しくなってしまった。


リエルも口には出さなかったが、孤児院の事を思い出しているようだった。





「なぁ、ここじゃないか?」


かれこれ三十分以上歩き回って、ようやく目的の場所に到着した。



コン、コン、コン


「ごめんください。ニーナさんの紹介でラクスから来たルフィアとリエルです」


「――はい、はい、ちょっと待ってね!」


玄関先でしばらく待っていると、女性が慌てたように飛び出してきた。


「待たせちゃってごめんね。部屋の中がちょっと散らかってて、少し片づけていたんだ。

さぁ入って、入って」


「すみません、お邪魔します」


「昨日までは綺麗だったんだけどね。あははははっ」


ちょっと、これをちょっとと言うのだろうか。

床には書きかけの絵や丸められた用紙、脱ぎっぱなしの衣服が散乱していた。

まさに足の踏み場もないとはこの事だ。



「その辺、適当に座ってよ。あっ、邪魔だったらそこにある物どかしていいからね。

えっと改めまして、私はフィオナ・フロール。よろしくね」


「はじめまして、僕はルフィア・ゲルトです」


「俺はリエル・リンギット、よろしく」


「二人の事はニーナさんからよく聞いてるよ」


「フィオナさんてもしかしてあの孤児院の出身なんですか?」


「そうだよ。聞いてなかったの?」


「はい」


「私もあの孤児院には大分お世話になったからね。

恩返しも兼ねて、王都に出てきた若者の手助けをしてるんだ。

とはいっても空き部屋を貸してあげるだけなんだけどね」


「僕たちあまりお金ないし、すごく助かります」


「そう言ってもらえて嬉しいよ。私の絵がもっと売れてくれれば、

孤児院にもお金を送れるんだけどね」


「ドミノさんって絵描きなんですか?」


「まぁね。主に風景画を描いているんだ。でもそれだけじゃ食べていけないから貴族からの依頼を受けて肖像画なんかも描いてる。今じゃどっちがメインの仕事かわからないよ」


「あの絵は?」


「あれはアンダスシア公爵の令嬢、ヴァイオレット、アリス、イライザ三姉妹の肖像画さ。

先月依頼されてもうすぐ完成するところだよ」


絵画の中の三姉妹は豪華な衣装に身を包み、手や首には無数の宝石が散りばめられたアクセサリーを

これでもかと言わんばかりに身に着けていた。


「なんだかすごい絵ですね」


「描いている私が言うのもなんだけど、悪趣味な絵だろ。きっとこいつらは自分たちの権力や財力を絵画っていう形のあるものにして残したいんだろうさ」


「けっ、見ているだけで胸糞悪い」


リエルは一瞥するとふんっ鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


リエルの気持ちもわからなくもない。


僕たちのような孤児は貧しいながらも日々精一杯生きているのに、

貴族ときたら庶民から巻き上げたお金で贅沢三昧。


腹が立たない方がどうかしている。



「私もこんな仕事受けなくても食べていけるように頑張らないとね。


――さてこの話はここまでにして、そろそろご飯にしようじゃないか。


今日は二人のために、久しぶりに腕によりをかけて料理をしたんだぞ」


「そうなんですか? わざわざ、すみません」


「丁度気分転換になったし、気にしなくていいよ。

さて、それじゃ、料理を運んでくるから、そこのテーブルの上を片付けてもらっていいかな」


そう言うと彼女は鼻歌交じりに隣の部屋に消えていった。






「おい、ルフィア、これなんだ?

 前衛芸術かなにかか?」


僕たちの前に出された料理は黒い塊に上から数種類の塗料をぶっかけたような謎の物体だった。


見た目もさることながら、この卵と酸味の混じった強烈な臭いが僕たちに恐怖感を与えた。



「今日のは自信作なんだ。いっぱいあるから遠慮なく食べてくれよ」


「フィオナさん、ちなみにこれ何て名前の料理ですか?」


「見てわかるだろう? これはニーナさんに教わったほうれん草とベーコンのキッシュだよ。

私の得意料理の一つなんだ。これを食べるとみんな泣いて喜ぶんだぞ」


きっとそれはつまり、そういうことなんだろ。

僕とリエルは顔を見合わせて苦笑いを浮かべるしかなかった。


「あの、フィオナさんは食べないんですか?」


「私は夜は食べない主義なんだ。食べると眠くなって創作意欲がなくなるからね」


「そ、そうなんですか」


「さっ、冷めないうちに早く食べて」


フィオナさんはテーブルに両肘をついて、ニコニコしながら僕たちを見ている。


「おい、ルフィア。こうなったら覚悟を決めるぞ」


「う、うん」


見た目はアレだけど味は美味しいかもしれない。

折角僕たちのために作ってくれたんだ、感謝していただこう。


「日々を生きるための糧を与えてくださったことに感謝いたします」


「感謝いたします」


「「いただきます」」


僕たちは意を決してキッシュらしきものを口に放り込んだ。


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