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2、


僕とリエルは日が昇る前に孤児院を出発した。

みんなを起さないように静かに玄関の扉を閉める。


「二人とも気を付けてね」


「はい、ニーナさんも体には気を付けてください。

向こうでの仕事が落ち着いたら手紙書きますね」


「みんなによろしく言っておいてください」


「えぇ分かったわ」


僕たちは後ろ髪をひかれながらもニーナさんにお別れを言って孤児院を後にした。



この孤児院のあるラクスの街から王都ヴェローナまでは馬車で5日間程の距離がある。


道中大きな川が流れているものの、それ以外は広大な平野が延々と続いている。

そこでは主に小麦の栽培が行われていて、その小麦を使って作られたパンはこの辺りの特産品になっている。


王都までの道は石畳とはまではいかないが、綺麗に舗装されており人の行き交いも多い。


街道としては比較的安全なのだが、夜ともなると魔物や野党などが現れては時折悪さをしている。

その為、商人は安全確保のためキャラバン隊を組み、冒険者を雇って商品を輸送している。


キャラバン隊は一か月以上の長旅をすることもざらで、途中にある街や村に休憩や補給の為に立ち寄る。


このラクスの街もその一つである。



「すみません。王都まで二人乗せてもらいたいんですけど、空いてますか?」


「ん? あぁいいよ。一人大銅貨20枚だよ」



二人分の大銅貨を手渡すと小さな荷物を抱えて荷馬車の隅っこに腰かけた。


「一発目から乗れるなんてラッキーだな」


荷馬車には既に3人が座っており、僕たちで丁度満席になった。



「二人は王都に遊びに行くのかい?」


目の前に座っていた無精ひげを生やした男が僕たちに話しかけてきた。


「まさか。俺たち王都に仕事しに行くんだ」


「へえ、もしかして今年成人したのか?」


「えぇ、まぁそうですけど」


「そうか、もうそんな時期か。

 俺にもそんな頃があったなぁ」


男は顎に手を当てながら懐かしそうな目で遠くを見ていた。


「おじさんは、王都に何しに行くんだ?」


「おい、おい。おじさんはやめてくれよ、これでもまだ三十歳だぞ。

それに俺にはグレン・ル・ベールっていう名前があるんだ」


「僕はルフィア・ゲルトです」


「俺はリエル・リンギット。よろしく」


「リンギット?」


「そうだけど、それがどうした?」


「……いや、別になんでもない。珍しい名前だと思っただけさ」


「グレンさんは王都に何をしに行くんですか?」


「俺か? 俺はこのキャラバンを護衛をしてるのさ」


「もしかして冒険者ですか?」


「あぁそうだ。こう見えて王都ではそこそこ名の通った冒険者なんだぞ」


「グレンさん一人でこのキャラバンを護衛してるんですか?」


「まさか、俺以外にも何人か帯同しているよ。

最近は魔物も増えてきて昔に比べて大分物騒になったからな」


「そうなんですか」


「で、お前さんたちは王都でどんな仕事するんだ?」


「リエルは冒険者目指してるんです」


「冒険者? 悪い事は言わないから冒険者はやめておいた方がいいぞ」


「なんでだよ」


「危ない、給料は安い、休みはない。ないない尽くしのブラック職業だぞ」


「んじゃ、なんでグレンは冒険者やってるんだよ?」


「――まぁ俺は他にやれることもないからな、ただそれだけだよ」


「ルフィア、君は何をやるんだ?」


「僕はなにか商売を始められたらと思っています。

って言ってもまだ具体的には何も決まっていないんですけど」



「そうか。まぁまだ若いんだ。色々と考えるといいさ」


「はい」


「――グレンさんちょっといいかい」


声の方を振り向くと御者席に座っていた男がグレンを呼んでいた。


「ん?あぁもうそろそろ出発の時間か。それじゃ仕事に戻るかな。じゃあな」


グレンは軽快な動きで荷馬車から御者席に移動し、運転手となにやら打ち合わせを始めた。


「さて、王都に着くまでたっぷり時間があるから俺はひと眠りするかな。

ルフィア、何かあったら起こしてくれよ」


そう言うとリエルはグレンの退いたスペースに足を延ばし、起きたばかりだと言うのに横になってすやすやと寝息を立て始めた。


いつでもすぐ寝られるなんて、ちょっと感心してしまう。


この馬車には僕たち以外にグレンさんを除いてあと二人乗っていたが、彼らも狭い場所で器用に眠っていた。



僕は話相手がいなくなったので、ぼんやり馬車の外を眺めていると、大柄な男性が巻貝の笛を持って歩いていく姿が目に留まった。

なにをするのかと思ったが、どうやらあの人が笛を鳴らして出発の合図を出すらしい。

男はキャラバン隊の丁度中央で立ち止まると笛に口をあて、肺一杯に空気を吸い込みゆっくり息を吐きだした。

すると辺り一帯にボー――っという重低音が響き渡り、それを合図にキャラバン隊はいっせいに進み始めた。






僕は特にすることがなかったので、例のスキルについて考えてみることにした。


あの後、目の前に現れた紙を色々と調べてみたが、分かったことと言えば上質の用紙に神々の見積書と書かれているということだけだった。


スキルの効果がそれだけとは、いくらなんでも考えにくい。


なにか他にあると思うんだけど。


見積書、見積書、見積、見積……。


見積って要はこのキャラバンに荷物運びをお願いするときに掛かる費用を前もって出すことだよね。


この前はスキルを発動するときに何もお願いをしてなかったから見積書が白紙だったのかもしれない。


なら、なにか依頼してみればいいんじゃないか?


とは言ったものの、何を頼んでみよう。


そろそろお昼だし、僕とリエル、二人分の昼食をお願いしてみようかな。


ダメでもともと。


僕は半分冗談のつもりで試すことにした。




目を閉じ意識を集中する。



スキル≪神々の見積書≫


僕とリエル、二人分のサンドイッチ



魔力が失われていく。

どうやらスキルは発動したようだ。


僕の目の前には昨日と同様に一枚の紙がふわふわとゆっくり舞い下りてきた。



僕は紙を手を取り、覗き込む。



どうやら一応成功したみたいだ。


紙にはこう書かれていた。



神々の見積書


件名:ルフィアとリエルのサンドイッチ


納入期日:即日


取引方法:即日現金払い


有効期限:見積書発行から30日以内


見積合計金額:大銅貨10枚


取引しますか? はい、いいえ


注意事項:いいえにチェックするとこの見積書は消滅します。



成功したのはいいけど、

これはお金を払うとすぐにサンドイッチが手に入るということなのだろうか。


それはそうと、これどうやってお金を払うのだろう?


僕は疑問に思いながらも一応大銅貨10枚を片手に握りしめ、「はい」にチェックを入れた。



すると次の瞬間、しっかりと握っていたはずの大銅貨10枚と見積書は消え、

僕の手の上には白い箱にぎっちりと詰め込まれたサンドイッチが置かれていた。


「!?」


僕は目の前で起こった現象を理解出来ずにいた。


「なにが、どうなってるんだ……。

それに、これちゃんと食べられるのかな」


突然現れたサンドイッチを訝しく思いながらも、恐る恐る手に取り一口食べてみた。


「……美味しい」


今まで食べた中で間違いなく一番の美味しかった。

パンからは焼き立てのこうばしい香り。

ベーコンからはスモークの香りとジューシーな脂が口いっぱいに広がり、

間に挟まれたレタスとトマトはまるで採りたてのように新鮮だった。



これが僕のスキルの力



このスキルとんでもないスキルなんじゃ……。



――そうだ。


「リエル、リエル! ちょっと起きてよ」


「ん? どうしたんだルフィア」


「これリエルの分だから食べてみてよ」


リエルは寝ぼけているのかサンドイッチの存在には疑問を持つ様子もなく、

口に放り込んでむしゃむしゃ頬張っている。


「これ、うまいな」


「だよね、まだあるからもっと食べていいよ」


「あぁ、ありがとう」


余程お腹が空いていたのか、リエルはあれだけあったサンドイッチをぺろっと平らげてしまった。


「んー、旨かった。ごちそうさま。

ところでいまのサンドイッチどうしたんだ?」


食べ終わってから疑問に思ったのか指をぺろぺろ舐めながら僕に尋ねてきた。


「僕のスキルで出したんだよ」


リエルはきょとんとした顔で僕の顔をまじまじと覗き込んだ。


「お前大丈夫か?寝ぼけてないよな」



まぁ、それはそうか。そんなこと誰が信じるというのだ。

とはいえ一応リエルには事の経緯を説明した。


「なんか信じられない話だな」


「僕だっていまだにちょっと信じられないよ」


「もう一度出来ないのか?」


「そうしたいのはやまやまだけど、魔力が足らないんだ。

一日一回が限度かも」


「そうか。それよりもし仮にお前の話が本当なら、

スキルの事は俺以外に言わない方がいいぞ」


「リエルもそう思う?」


「あぁ、そんな反則級のスキルがあるとわかったら、

変な奴らがわんさか押し寄せてくるぜ」


「まだわからないことがいっぱいあるけど、気を付けるようにするよ」


「それがいい。何かあったら俺に相談してくれよ」


「うん、ありがとう。リエル」




結局王都に着くまでスキルの使用は控えた。

色々試してみたかったが誰かに見られたら面倒なことになりそうだったので我慢した。



それから王都に着くまでの5日間、こんなことを言ったらグレンさんに怒られるかもしれないが、実に退屈な旅だった。


天気は良好、日中は爽やかな風が吹き抜け、夜には満天の星空が広がっていた。


魔物や野党が現れることもなく、羊の群れがのんびり草原を散歩していた。


僕は暇だったので行商人のおじさんと色々と話をした。


なんでも王都では来月、収穫祭が行われるため街中がその準備に追われているとか。

このキャラバン隊も収穫祭で売るための商品を運んでいる途中らしい。


祭りの期間は他国からも多くの人や物が行き来するため、一年で一番ヴェローナが賑わいを見せるという。


「商売人はみんな喜んでるけど、俺たちは大変なんだぜ」


ひょっこり顔を出したグレンさんはやれやれといった様子で大げさに首を振っていた。


「楽しそうでいいじゃないか」


「リエル、お前はなんにもわかっちゃいない。わかっちゃいないぞ。

人が集まるっていうのはトラブルの元なんだよ」


「そんなもんなのか?」


「こちとらやっと仕事が終わってゆっくりしようってのに、

帰ったらみんな駆り出されて警備の仕事だよ」


「金になるんだからいいじゃないか」


「国からの依頼なんて小遣いにもならないぜ。

朝から晩まで酔っ払いやらスリやらの相手しなくちゃならないんだ。

たまったもんじゃない」


「それは、いろいろと大変そうですね」


「ルフィア、お前はわかってくれるか。そう冒険者は大変なんだ」


「冒険者っていうより何でも屋だな」


「お前たちみたいな田舎者はいい鴨だぞ。

 色々と気を付けるんだな。

っとそろそろ王都ヴェローナに到着だ」



荷馬車から顔を出すと目の前には天までそびえ立つかのような立派な城壁が街全体をぐるっと囲み、

はるか彼方には王城らしき建物が頭を覗かせていた。


「あれが王都ヴェローナ」


「やっぱり王都だけあってまるでラクスとは違うな」


「そりゃ、そうさ。なにせ世界各地からあらゆるものが運ばれてくるんだ。

ここは正に世界経済の中心地だよ」


ここまで順調に進んでいたキャラバン隊だったが、城下町入り口まであと数キロのところでぴたりと足が止まってしまった。

外を覗くと王都までずらっと荷馬車が列を作っていた。


「これまさか王都まで続いているんですか?」


「あぁ。この時期は特に人の行き来が多いから、しょっちゅうこうなるんだよ。

まっ、こればっかりはどうにもならんし、気長に待つしかないさ」


そう言うとグレンは御者席の横で足を組んで眠そうに欠伸をしていた。


御者のおじさんに話を聞いたところ、王都への入場審査ために大渋滞が起きているそうだ。


結局そこから進んでは止まってを繰り返すこと6時間、ようやく僕たちの乗せたキャラバン隊の番が回ってきた頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。


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